高野哲臣 (医薬研発達人編集長、Labcorp Development Japan)

毛 冬蕾 (医薬研発達人編集部、研発客董事長兼編集長)

 

今号(2022年10月24日発行、第34号)では、2022年10月8日(土)に東京ビッグサイトとオンラインで開催されたDIA Asia Meeting 2022ならびに2022年10月9日(日)-11(火)に同じく東京ビッグサイトとオンラインで開催された第19回DIA日本年会2022への参加を通じて得られた中国に関する知見を報告する。

 

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 東京ビッグサイト

 

1. DIA Asia Meeting 2022

DIA Asiaは、2007年5月に東京・新宿で産声を上げて以来、東日本大震災のあった2011年5月を含めて、2018年3月まで12年間継続して毎年春に東京で開催されてきたが、2019年よりアジア数カ国で持ち回り開催することとなり、以後、2019年4月:東京開催、2020年:中国(コロナ禍にて中止)、2021年9月:シンガポール開催(オンライン)と続き、今回の2022年10月:東京&オンライン開催に至っている。次回2023年は中国で開催予定である。

 

DIA Asiaの内容は、当初、どちらかといえば、中国・台湾・韓国など東アジアの開発/薬事戦略やクリニカルオペレーションなどにフォーカスされていたが、年を経るに連れて、ASEANや米欧などカバーする地域は広がり、PV・安全性・製品情報・市販後など取り上げるトピックも多岐にわたってきている。

 

さて、DIA Asia Meeting 2022では、以下の2つの中国関連演題があったが、本稿では前者について取り上げる。

l  Digital Transformation in New Drug Development -NMPA Perspective and Practice- (Shi Le, MD; Consultant, Division of Chemical Drugs, Department of Drug Registration, National Medical Products Administration; NMPA)

l  Updates for Pharmacovigilance Initiatives in China (Yuan Meng, MD; EVP, Head of Medical Office, R&D, I-Mab BioPharma)

 

ご本人からお許しをいただいたので、Dr. Shi Le (時 楽氏)のご発表から4-6, 8頁のスライドを引用させていただく。

 

治験における電子記録に続くデジタル化のニーズは、中国においても近年大きく高まっているが、それにより、sponsor, investigator, 被験者の全てに恩恵がもたらされる(4頁)。

DCT (Decentralized Clinical Trials) やAIなど、新薬開発に用いられる新たな手法・ツール・モデルは非常に有用であり(5頁)、COVID-19 pandemic下での治験、患者中心の治験、Real World Studyを加速させる上で、デジタル化は有望かつ必要不可欠となっている(6頁)。

 

Dr. Shi Leのスライド4

 

Dr. Shi Leのスライド5

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Dr. Shi Leのスライド6

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NMPAによるデジタル技術に関するガイドラインのうち、臨床試験については、2020年7月14日にCDEから発出され、同日より施行された「COVID-19 pandemic期間中の医薬品臨床試験管理に関するガイドライン(試行) (2020年第13号)」「《新冠肺炎疫情期间药试验管理指(行)》的通告(2020年第13号)」が挙げられる。

 

さらには、いずれもパブコメ段階であるが、2022年8月9日にCDEから以下のガイドライン(案)が発出されている(8頁)。

l  「患者を中心とした臨床試験デザインに関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ

关于公开征求《以患者中心的试验设计(征求意稿)》意的通知

l  「患者を中心とした臨床試験の実施に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ

关于公开征求《以患者中心的试验实施技》(征求意稿)意的通知

l  「患者を中心とした臨床試験のベネフィット・リスク評価に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ

关于公开征求《以患者中心的试验获益-风险评估技(征求意稿)》意的通知

 

Dr. Shi Leのスライド8

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2. 中国におけるDCTの現状

今回のDIA AsiaとDIA日本年会では、ランチョンセミナーも含めて、DCTに関する発表が非常に多かったが、筆者が把握する限り、中国のDCTの具体的な現況に言及する演題は無かったように思う。そこで、本題の両DIA参加報告からは外れるが、本誌面にて、日中間の違いという視点から、中国におけるDCTの現状について、筆者の理解を共有したい。

 

医薬研発達人第32号(2022年9月26日発行)の編集長コメントの記載と一部重複するが、まず両国共通であるICHガイドラインにおいて、DCTはGCP renovationの一環として、pragmatic clinical trialsやreal world dataとともにICH E6(R3)のAnnex 2 (Additional considerations for non-traditional interventional clinical trials)に含まれている。Updated Concept Paper for Annex 2がまもなくreleaseされ、2023年春から骨子検討に次いでドラフト作成が始まり、その先にドラフト合意・承認→パブコメ→結果分析→改訂→最終版合意・採択といった作業があるため、Step 4(最終合意・採択)やStep 5(各国での施行)までにはあと数年は要することになる。

 

日本においては、PMDAから2020年3月27日作成→4月2日, 4月21日, 5月26日更新の「新型コロナウイルス感染症の影響下での医薬品、医療機器及び再生医療等製品の治験実施に係るQ&Aについて」が発行され、DCTの多くの手法が網羅されているが、一方、中国においても、Dr. Shi Leの発表にあったように、2020年7月14日にCDEから発出/施行された「COVID-19 pandemic期間中の医薬品臨床試験管理に関するガイドライン(試行) (2020年第13号)」「《新冠肺炎疫情期间药试验管理指(行)》的通告(2020年第13号)」において、リモートモニタリング、治験薬(の被験者への)直接配送、オンライン診療等について言及がされている。

 

ePRO/eCOA (Electronic Patient-Reported Outcome / Electronic Clinical Outcome Assessment)やウエアラブルデバイスなど、コロナ禍前から両国で既に導入されていたDCTツールを除くと、コロナ禍の両国で共通して導入が進んだDCTはリモートモニタリングである。一方、被験者周りのDCTで、コロナ禍の中国で導入が進んだのは、断トツで治験薬直送である。

 

上海市では、2022年3月28日に突如浦東でロックダウンが開始され、数日後の4月1日には全市に拡大され、その後5月31日に解除されるまで、散歩や買い物を含めて原則として自宅居住区から一切外出することができない自宅軟禁がごとく封鎖生活が2カ月間続いた。この間、病院受診も制限されていたため、治験参加中被験者に治験薬を継続提供するには治験薬直送に頼るしかなかった。

 

また、例えば北京市と天津市は120kmの距離があるが、新幹線に乗ればわずか30分で移動できるなど、北京市内の病院を受診する北京市外在住患者は少なくない。ところが、北京市では、北京市内と市外との人流を著しく制限したため、北京市外在住の治験参加中被験者が北京市内の治験参加施設を予め定められたスケジュールどおりに継続受診するのは容易ではなかった。この場面でも、治験薬直送は有用であった。

 

中国のロックダウンは、2020年1月23日から4月8日まで続いた武漢市が初っ端であったが、その後、今日に至るまで中国の多くの都市で実施されてきている。CNNによれば、2022年8月20日以来、少なくとも74都市(人口合計3億1,300万人)で市全域や地区を対象とするロックダウンが実施された。この中には成都など省都の15都市と直轄4市の一つである天津市など、多くの基幹都市が含まれていた。

 

北京、上海、武漢、成都、天津は、いずれも中国における極めて重要な治験拠点都市であるが、これらの事情で、実施中治験には膨大なデータの欠測や時期ズレが生じた。その上で、治験薬の投与打ち切り/長期間休薬や継続受診不能による治験の途中中止・脱落も多々生じたため、被験者の安全性確保という観点からも、有効性・安全性評価不能例の大量発生という点においても、事態は非常に深刻であった。なお、当然ながら、実施中治験の新規患者組み入れ、新規治験立ち上げにおいても、甚大な影響を受けた。

 

次いで、両国それぞれで固有のDCTガイドラインについてであるが、日本は今年度中のDCTガイドライン発出が見込まれている。日本において、ePRO/eCOA・ウエアラブルデバイスに加えて、訪問看護やオンライン診療は徐々に普及してきているものの、これまでのところ、治験薬直送やサテライト医療機関は限定的で、eConsentについてはほぼ補助的な使用に留まっている。

 

一方、中国はDr. Shi Leの発表にあったように、2022年8月9日にCDEから3種類のDCTガイドライン(案)についてのパブコメが発出されているが、中国でDCTを本格的に普及させるためには、ニーズやinvestigator/被験者/CRC/ベンダーの理解・協力に加えて、各治験参加施設のGCP officeの理解と協力を得た上でのSOP改定が必須である。ITリテラシーの高い中国においても、サテライト医療機関やeConsent導入にあたってのハードルは高く、やはり最終化されたDCTガイドラインの発出/施行が待たれている。

 

いずれにしろ、日中両国において、今後、DCTに如何に対応していくかが、米欧との世界同時開発のMulti-Regional Clinical Trials; MRCTに参加し続けていくためのカギとなりそうである。

 

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DIA Asia Meeting 2022のSession 1 パネルディスカッションにて (スクリーン中の右下Dr. Shi Le)

 

 

3. 19DIA日本年会2022

第19回DIA日本年会2022では、筆者が把握する限り、中国に特化した発表は無かったように思う。一方、日中両国ならびにアジア各国と地域の患者さん等の利益のために、ぜひとも国を挙げてサポートしてもらうべき、と感じた演題があったので、この場で紹介したい。

 

l  10/10(月・祝)10:30-11:45 Live Session 18「薬事承認を目指したアジア国際共同試験の推進」(座長: 国立がん研究センター中央病院 中村健一)

Ø  1番目の発表者「AROによるアジアの薬剤開発ネットワークの構築」(国立がん研究センター中央病院 大熊ひとみ)

 

DIA日本年会、ならびに9/9(金)-10(土)「第12回レギュラトリーサイエンス学会学術大会 シンポジウム4」、9/16(金)-17(土)「ARO協議会第9回学術集会 シンポジウム7 & 教育セミナー14」の発表内容と合わせて、国立がん研究センター(National Cancer Center; NCC)が中心となって現在進めているMASTER KEY Asia (https://atlas.ncc.go.jp/MK_Asia/) (NCT05217407) について言及させていただく。

 

MASTER KEY Asiaは、アジアにおける希少がんの臨床ゲノムデータベースの構築とがんゲノム診療の実装推進を目指して、NCCがスポンサーとなって、2021年からアジアで進行中の国際共同前向きレジストリ研究である。病理中央判定はNCCで行われ、遺伝子パネル検査も日本で行われるため、腫瘍検体や血液検体は日本に輸出される。病理中央判定結果、送付された検体の質、Next Generation Sequencer; NGSによる遺伝子パネル検査結果、遺伝子異常に対する解釈や治療戦略などNCCから各参加施設に適切にフィードバックされ、さらにNCCとのディスカッションも行われるため、各施設は希少がんのゲノム診療実装に向けて大きく前進する。本試験は、現在、日本・マレーシア・フィリピンで実施中、韓国・台湾・タイ・ベトナム・インドネシアで準備中、シンガポールで計画中と、東アジアや東南アジアの多くの国が参加しているが、これまでのところ、中国は参加していない。

 

中国では中国人遺伝子情報を含む試料の国外持ち出しが大きく制限され、中国人患者の臨床情報を国外医療機関のEDCに入力するにもハードルがあり、また知的財産や得られた成果物の所有権についても非常に厳格であるため、たとえ希少がん対象で、中国の参加施設に大きなメリットがあったとしても、MASTER KEY Asiaのような国際共同研究に中国が参加することは極めて困難である。

 

しかしながら、希少がんは診断が難しい疾患が多く、希少がんのゲノム診療実装、開発プラットフォーム構築、ゲノムデータベースの構築は、たとえ中国であっても、そうそう簡単ではないため、他国と組まずに独自で行うよりも、NCCはじめ日亜各国の医療機関と協働する方が、遥かに効率的でスピードも速いと思われる。また、NCCはじめ日亜各国の医療機関としても、人口や患者数でアジア随一の中国が仲間に入るメリットは、極めて大きい。

 

MASTER KEY Asiaのような国際共同研究に中国が参加しようとする場合、科学的にも国民・患者・医療機関のためにも、中国にとって非常に有意義であることが明らかだったとしても、中国の個々の病院が独力で数々の規制や障害を乗り越えるには限界があるので、「まず国家間のパイプ等を利用して、国や各管轄規制当局に当該国際共同研究のメリットや必要性を理解してもらい、その上で、国を挙げてサポートしてもらう」というアプローチを取る必要があるのでは、と感じた。

 

謝 辞

 

DIA Asia Meeting 2022ならびに第19回DIA日本年会2022のプログラム委員会はじめ関係者の皆さま、DIA Japan事務局の皆さま、今回のDIAでのご発表に加え、スライドのご提供を含めて本記事へのご協力を賜ったNMPAのDr. Shi Le、そして国立がん研究センター中央病院 中村健一先生、大熊ひとみ先生に心より感謝申し上げます。

 


前号までの記事は下記からご覧いただけます。

 

第33号:住友ファーマ中国 纐纈 義隆氏:中国での新たな挑戦

第32号:中国におけるリアルワールドデータの活用

第31号:中国における細胞及び遺伝子治療製品の審査概要と業界動向

第30号:中国における抗悪性腫瘍薬併用療法の開発トレンド

第29号:中国における医薬品の臨床試験中ならびに市販後の変更

第28号:張 剣教授:中国の若手研究者により多くの成長の機会を!

第27号:中国バイオのイノベーションを投資市場の視点から切る

第26号:医薬研発達人創刊1周年に寄せて (2022年7月4日発行、第26号)

第25号:2022年日中医薬健康交流会報告

第24号:CDE相談の現況

第23号:CDEのバイスペシフィック抗体医薬品ガイドラインがもたらすもの

第22号:中国製薬メタモルフォーゼ: BiotechからBiopharmaへ

第21号:中国における小児用医薬品開発の課題―現状を打破するにはー

第20号:2020年に登録された中国臨床試験の全体像から分かること

第19号:中国の製薬会社は、米FDAにおける信達生物製薬(Innovent)の経験から何を学ぶべきか?

第18号:中国の医療保険制度と薬価交渉の概観(下編)

第17号:中国の医療保険制度と薬価交渉の概観(上編)

第16号:中国の新しい希少疾病用医薬品臨床開発ガイドライン

第15号:2018~2021:過去4年間の創新薬の承認状況を振り返って

第14号:医薬研発達人第14号:新春挨拶

第13号:呉一龍教授:中国は世界の臨床研究において、重要な役割を果たしている

第12号:第6回中国医薬創新投資大会(CBIIC):導入(Buy)、フォロー(Follow)、改良(Improve)から真のイノベーションへ

第11号:CDE化薬臨床1部 楊志敏部長ご講演聴講記 (第18回DIA日本年会2021)

第10号:CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出

第9号:2021年上半期の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析

第8号:   中国GVP (Good Vigilance Practice) の公布・施行

第7号:  協和キリン丁 锎氏:日中両国臨床データ相互利用を強化する可能性

第6号:臨床的価値に焦点を当てる優先審査と特別審査 |上市促進プロセス(下)

第5号:中国の画期的治療薬、条件付き承認を多角的に分析|上市促進プロセス(上)

第4号:武田薬品の王  璘:中国の薬品研究開発:世界に追いつき、世界の研究開発をリードする

第3号:1回日中ICH合同シンポジウム:日中協働と相互理解の促進

第2号:NMPAはどのようにICH管理委員会メンバーに再選されたのか?

創刊号:医薬研発達人:日中両国のさらなる医薬発展への架け橋 |発刊にあたってのご挨拶

創刊号:なぜ、医薬研発達人を立ち上げたのか?|発刊にあたってのご挨拶

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34号

 

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