編集長コメント (2022年8月29日発行、第30号に寄せて)
今号においても、医薬研発達人第29号(2022年8月15日発行)に引き続き、2022年3月に泰格医薬と研発客によって発行された「2021年医薬品政策・規制年度報告書」からトピックを選んで、以下にて日本語訳の提供を行う。
2回目となる今回は、「第9章 抗悪性腫瘍薬併用療法の開発」を取り上げた。
なお、日本語訳にあたっては、「2021年医薬品政策・規制年度報告書」に掲載されたオリジナル版ではなく、2022年7月15日に研発客に掲載された加筆修正版「肿瘤药联合治疗审评考量三大关键点」「抗悪性腫瘍薬併用療法の審査における3つのポイント」を参照した。
抗悪性腫瘍薬の開発・治験は、開発が進むに連れて、より様々ながん種へ、より早期のステージへ、より多くの治療法やレジメンへ、単剤療法から多剤併用療法へ、と対象が拡大して行く。
中国で抗PD-1抗体が初めて承認されたのは2018年の中頃であった(2018年6月にNSCLC対象のNivolumab、2018年7月にmelanoma対象のPembrolizumab)が、その後わずか4年間で、現在までに、抗PD-1抗体10品目(輸入2品目、国産8品目)、抗PD-L1抗体4品目(輸入2品目、国産2品目)が相次いで承認・上市されている。
また、中国における二重特異性抗体の大ブームは、医薬研発達人第23号(2022年5月23日発行)「CDEのバイスペシフィック抗体医薬品ガイドラインがもたらすもの」で取り上げたが、遂に国産第1号となるCadonilimab (PD-1/CTLA-4)が、2022年6月にNMPAから承認された。
これら次から次へと開発・上市される抗悪性腫瘍新薬(化学薬品・抗体製剤・抗体薬物複合体など)が、近年、凄まじい勢いで、中国内外において、多種多様な多剤併用治験を実施している。その圧倒的な勢いの一端は、医薬研発達人第20号(2022年4月11日発行)「2020年に登録された中国臨床試験の全体像から分かること」でもお分かりいただけると思う。
一方、抗悪性腫瘍薬の開発は、あまりにもメジャーで、かつ変化・進歩が著しいため、各種ガイドラインの整備も、休まる暇がない。
2020年1月1日から2021年11月3日までに抗悪性腫瘍薬に関してCDEから発出された25件のガイドラインを、医薬研発達人第10号(2021年11月8日発行)「CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出」に掲載したが、その後、9カ月余の間に新しいガイドラインが続々登場してきたので、今号では、その続きとして、2021年11月4日から2022年8月27日までに抗悪性腫瘍薬に関してCDEから発出された16件のガイドラインについて直下の表に拾い上げた。
ちなみに、リンク先のURLは貼っていないが、下表中の中国語の適当な部分をコピーして、CDE websiteのホームページ右上にある検索ボックスにペーストし、オレンジ色の捜索ボタンをクリックすれば、該当ガイドラインがすぐに見つかるはずなので、ご利用いただければ幸いである。
2021年11月4日から2022年8月27日までに抗悪性腫瘍薬に関してCDEから発出された16件のガイドライン (最終版9件+(案)についてのパブコメ7件)
*2021年11月3日以前は、医薬研発達人第10号(2021年11月8日発行)「CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出」をご参照ください。
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発出年月日 |
タイトル |
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2021年11月11日 |
慢性骨髄性白血病の薬物臨床試験における微小残存病変の検出に関する技術ガイドライン (2021年第43号) |
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2021年11月19日 |
多発性骨髄性の薬物臨床試験における微小残存病変の検出に関する技術ガイドライン (2021年第44号) |
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2021年11月19日 |
臨床的価値に基づく抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン (2021年第46号) |
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2021年11月26日 |
「抗悪性腫瘍薬治療における免疫関連有害事象の評価に関するガイドライン(案)」についてのパブコメ |
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2021年12月7日 |
抗悪性腫瘍薬の臨床開発におけるバイオマーカーの適用に関する技術ガイドライン (2021年第53号) |
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2021年12月8日 |
「進行性前立腺がん臨床試験のエンドポイントに関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
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2021年12月29日 |
進行性結腸直腸がんの新薬臨床試験デザインに関するガイドライン(2021年第56号) |
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2021年12月29日 |
抗悪性腫瘍薬のFirst-in-Human試験におけるexpansion cohort studyに関する技術ガイドライン(試行) (2021年第57号) |
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2022年1月6日 |
抗悪性腫瘍薬に起因する悪心・嘔吐予防薬の臨床試験デザインに関するガイドライン(試行) (2021年第70号) |
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2022年4月11日 |
「二重特異性抗体を用いた抗悪性腫瘍薬の臨床開発に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
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2022年4月21日 |
抗悪性腫瘍薬の添付文書中のADR data summaryに関するガイドライン (2022年第23号) |
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2022年5月17日 |
抗悪性腫瘍薬治療における免疫関連有害事象の評価に関する技術ガイドライン (2022年第25号) |
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2022年6月20日 |
「慢性リンパ性白血病の新薬臨床開発に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
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2022年6月20日 |
「抗悪性腫瘍薬の承認申請における単群臨床試験の適用に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
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2022年7月6日 |
「抗体薬物複合体の非臨床試験に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
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2022年7月19日 |
「急性骨髄性白血病の新薬臨床開発に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
(CDE websiteの掲載情報から筆者にて抽出ならびに翻訳)
高野 哲臣(Labcorp Development Japan)
抗悪性腫瘍薬は、世界の新薬開発のホットスポットの1つである。2021年11月10日に中国国家医薬品監督管理局医薬品審査センター(Center for Drug Evaluation, CDE) から発行された「中国新薬登録臨床試験の現状に関する年次報告書」によると、化学薬品および生物製品の抗悪性腫瘍薬臨床試験は、それぞれ臨床試験全体の39.5%(2020年の42.1%から減少)と45.8%(2020年の47.3%から若干減少)を占め、その割合は前年より多少減少はしているものの、他の治療分野の医薬品の臨床試験をはるかに上回った。
腫瘍の病因は非常に複雑であるため、治療薬の有効性を高め、薬剤耐性を克服し、患者の命を延ばしながら生活の質を高めるためには、これまでにない新たな併用療法開発が臨床開発のこれからの方向であると考えられる。中国におけるPD-1抗体およびPD-L1抗体の臨床試験を例にとると、2015年から2019年にかけて、抗悪性腫瘍薬の併用療法の臨床試験は年平均34%増加したが、単剤療法は年平均30%減少した。
併用療法によっては、がん患者により良い治療選択肢が提供できるが、単剤の臨床試験と比較してリスクやチャレンジもある。中国のバイオ医薬品企業が抗悪性腫瘍薬の併用療法開発に熱中する中、CDEは併用療法の臨床開発を合理的に実施するため、臨床価値指向の「抗悪性腫瘍薬併用療法の臨床試験に関する技術ガイドライン(2020年第55号、後述)を公表した。
中国内外の薬事技術指導原則のまとめ
抗悪性腫瘍薬の併用療法は、単剤療法の欠点を補いながら利点を生かすようにデザインすることが可能なため、将来の腫瘍分野における主要な開発方向となりつつある。製薬企業が合理的に研究開発できるようにするため、米国FDAは様々なガイドラインを策定した。
2013年6月に「Co-development of Two or More New Investigational Drugs for Use in Combination」をリリースし、 2つ以上の新しい被験薬の併用療法(これを新併用療法と呼ぶ)開発のための臨床試験設計とIND申請に関するガイダンスが提示された。
さらに、2018 年から 2020 年の間に、新しいガイドラインの草案が公表され、新併用療法の開発や、医薬品取扱説明書における併用薬情報の標準化についても触れられた。
l 「Expansion Cohorts: Use in FIH clinical trials to expedite development of Oncology drugs and Biologics」(2022年3月)
l 「Cross Labeling Oncology Drugs in Combination Regimens」(2020年11月)
中国のバイオ医薬品企業は抗悪性腫瘍薬の併用療法開発には欧米に遅れて参入したが、短期間で大きな成果を挙げている。特に、規制当局CDEは迅速に以下のガイドラインを策定し、抗悪性腫瘍薬の新併用治療薬の開発に非常に適した、製薬企業を良くサポートする実践的な臨床開発ガイダンスを提供した。
CDEは、抗悪性腫瘍創薬の研究開発を奨励する目的で、抗悪性腫瘍薬の新併用療法臨床試験の設計を標準化し、ガイダンスを与えるため、2020年12月31日に「抗悪性腫瘍薬併用療法の臨床試験に関する技術ガイドライン」(2020年第55号)を公表した。このガイドラインには、新しい併用療法を含めたがん併用療法の開発が合理的であるかどうかについて、また単剤臨床開発データの評価方法、新併用療法臨床試験の用量探索と有効性の要因分析(すなわち、併用療法を施した後、どの薬剤が機能したかを分析する)、異なる併用方法における望ましい臨床試験デザインなどが詳しく説明されている。
その後、CDEは、異なる臨床開発段階における抗悪性腫瘍薬の併用療法臨床試験についてのガイダンスを提供するため、下記の一連の技術ガイドラインを発行した。
1.「臨床的価値に基づく抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン」 (2021年第46号、2021年11月19日)
2.「抗悪性腫瘍薬臨床試験の統計デザインに関するガイドライン(試行) 」 (2020年第61号、2020年12月31日)
3.「抗悪性腫瘍薬のFirst-in-Human試験におけるexpansion cohort studyに関する技術ガイドライン(試行) 」(2021年第57号、2021年12月29日)
4.「抗悪性腫瘍創新薬の承認申請時の安全性総括資料作成に関する技術ガイドライン」(2020年第56号、2020年12月31日)
これらのガイドラインは、「患者中心」の視点から、研究開発プロジェクトの設立、非臨床研究、併用療法臨床試験の設計、医薬品承認申請を支援する臨床データなどを含めて、臨床的価値を持つ併用療法臨床試験の実施における具体的なガイダンスをさらに提供している。
新併用療法開発戦略の検討
米中の最新の併用療法臨床試験ガイドラインを比較してみると、考慮すべき事項に関する記載が非常に類似していることがわかる。すなわち、1)臨床試験の基本的な考えは、患者の利益を優先するものであるべきである; 2)併用薬に関する非臨床データおよび/または臨床データ、および被験薬の単剤臨床データが十分であること; 3)早期の探索的研究段階から要因分析を行い、科学的かつ厳格に新併用療法の計画を策定する。また、抗悪性腫瘍薬併用療法の組み合わせは多様であり、個々の薬剤の開発や申請内容も非常に複雑なため、規制当局は、単剤承認に基づいてすべての併用療法臨床試験の申請要件を統一することは難しい、と米中両ガイドラインとも強調している。したがって、開発プロセス全体を通して、申請企業に医薬品規制当局との十分な議論を維持するよう米国FDA と中国CDEは勧めている。
1)新併用療法の早期臨床試験において、単剤療法と新併用療法の開発がどのように融合するか
製薬企業の専門家によると、併用療法臨床試験の早期段階において、まず単剤の安全性や薬物動態に関するデータを入手すべきと考えているが、臨床開発の効率を高めるため、IND申請時に単剤臨床試験と併用療法臨床試験の両方の用量漸増とexpansion cohort studyを同時に提出することが望ましい。単剤臨床試験が完了した後、安全性評価委員会(Safety Review Committee,SRC)またはデータモニタリング委員会(Data Monitoring Committee, DMC)の評価によって、新併用療法臨床試験の段階に入ることができるかどうかが決定される。必要に応じて、CDEは単剤臨床試験の完了時にその試験データを提出するよう製薬企業に要求し、後に審査対象とする。
2)新併用療法臨床試験のIND
新併用療法の開発において企業側が関心を持っている事柄は、如何にIND申請を行うか、どのような申請データが必要となるか、NDA申請に際して特段の要求があるか等々である。併用療法、特に複数の新規分子同士の併用療法をIND申請する場合、各新規分子が複数の企業に所有されている場合においても、現在のCDEの規定によるとこれらの薬剤の所有者は同時に2つのIND申請を行う必要がある。
併用療法臨床試験のIND申請について、CDEの審査官らは、「中国新薬ジャーナル」に下記のように記述している。併用療法を構成する各単剤が、1)中国でIND承認されている、あるいは、2)中国で上市されている、のいずれかを持っていることが併用療法の臨床試験を行うことができる前提となる。従って、併用療法の臨床試験を実施する前に新しいIND申請を行う必要があるか否かは、主に個々の単剤の上市状況と申請状況に基づいて判断する。下記の表に、2つの薬剤の併用(成分A+成分B)を例として説明する。
表1 単剤の状況に応じた併用療法臨床試験のIND申請要件

両成分ともが未上市であり、両成分のINDが提出されてIND承認されると、理論的には同じ臨床試験に複数のIND申請者(IND holder)ができることになる。しかし、実際には、以下のような調整が行われるため、多くの場合、臨床試験の主要なIND申請者(IND holder)は1つだけとなる。
2つ以上の薬剤の新併用療法のIND申請が行われる際には、当事者間の話し合いにより、基本的に(単一の)申請者がすべての責任を負うという原則を採用し、実際に臨床試験を行う一方の当事者のみがIND申請者として第一義的な責任と義務を負い、他の当事者は商業契約および法的文書を通じて異なる責任を負うという契約関係を構築する。
従って、企業側が期待しているのは、2つ以上の未承認薬(未上市薬)の新併用療法をIND申請する際には、主要な当事者のみIND申請することによりCDEからIND承認が得られる。つまり、新併用療法の薬剤が一つの申請者によりIND承認を得た場合、各当事者の同意をもって単独で新併用療法の臨床試験を行うことができる。その臨床試験が完了すると、IND申請を提出していない当事者は、彼らの新薬についてINDや臨床試験を繰り返すことなく、当該適応症の承認申請を行うことができる。
将来を見据えて
抗悪性腫瘍治療分野において、その大きな臨床ニーズにより、抗悪性腫瘍薬新併用療法はこの分野の開発トレンドになりつつある。合理的な新しい併用療法は、がん患者により良い治療オプションをもたらすことができるが、不適切な併用療法は、被験者のリスクを高め、臨床開発の効率を低下させ、時間、財源、医療資源を浪費し、真に効果的な併用療法の開発を妨げる。そのため、科学的かつ合理的な新併用療法の開発経路を確立することが不可欠である。すべての当事者の努力によって、がん患者がより良い治療オプションの利益を得る時は間近いと、著者らは固く信じている。
日本語訳と編集、レビューをいただいた石薬集団チーフメディカルオフィサー項 安波(Xiang,Anbo)博士、医薬品開発コンサルタント植村 昭夫博士、医薬研発達人編集長高野 哲臣氏に深く感謝申し上げます。
前号までの記事は下記からご覧いただけます。
第29号:中国における医薬品の臨床試験中ならびに市販後の変更
第28号:張 剣教授:中国の若手研究者により多くの成長の機会を!
第27号:中国バイオのイノベーションを投資市場の視点から切る
第26号:医薬研発達人創刊1周年に寄せて (2022年7月4日発行、第26号)
第23号:CDEのバイスペシフィック抗体医薬品ガイドラインがもたらすもの
第22号:中国製薬メタモルフォーゼ: BiotechからBiopharmaへ
第21号:中国における小児用医薬品開発の課題―現状を打破するにはー
第20号:2020年に登録された中国臨床試験の全体像から分かること
第19号:中国の製薬会社は、米FDAにおける信達生物製薬(Innovent)の経験から何を学ぶべきか?
第15号:2018~2021:過去4年間の創新薬の承認状況を振り返って
第13号:呉一龍教授:中国は世界の臨床研究において、重要な役割を果たしている
第12号:第6回中国医薬創新投資大会(CBIIC):導入(Buy)、フォロー(Follow)、改良(Improve)から真のイノベーションへ
第11号:CDE化薬臨床1部 楊志敏部長ご講演聴講記 (第18回DIA日本年会2021)
第10号:CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出
第9号:2021年上半期の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析
第8号: 中国GVP (Good Vigilance Practice) の公布・施行
第7号: 協和キリン丁 锎氏:日中両国臨床データ相互利用を強化する可能性
第6号:臨床的価値に焦点を当てる優先審査と特別審査 |上市促進プロセス(下)
第5号:中国の画期的治療薬、条件付き承認を多角的に分析|上市促進プロセス(上)
第4号:武田薬品の王 璘:中国の薬品研究開発:世界に追いつき、世界の研究開発をリードする
第3号:1回日中ICH合同シンポジウム:日中協働と相互理解の促進
第2号:NMPAはどのようにICH管理委員会メンバーに再選されたのか?
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第30号
