
医薬研発達人編集長 高野哲臣(Labcorp Development Japan)
読者の皆さまの幅広いご支持に支えられ、2021年7月5日に産声を上げた医薬研発達人は、この度、創刊1周年を無事に迎えることが出来ました。
日本の産官学の皆さまを中心に、日頃、中国の医薬品規制・開発・ビジネス等に関与されている数多くの読者の方々に、これまでご愛読いただいておりますこと、あらためて心より御礼申し上げます。
この1年間、隔週発行をほぼ維持することができたのも、ひとえに皆さまからの温かいお言葉や応援・サポート・叱咤激励があったからこそです。
今月からの2年目も、引き続き、皆さまからのご期待に沿えますよう、編集委員一同、一層向上して参る所存ですので、変わらぬご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
さて、1周年記念の今号において、私からは、先月6月1日ならびに6月7日にCDEから発表された報告書と、今年4月末から5月中旬にかけて発表された日系大手製薬企業4社の2022年3月期決算ならびにClinicalTrials.gov/中国CDE website登録臨床試験情報について、内容の一部を関連付けながら考察したいと思います。
1. 近年の中国の急激な治験数&MRCT数増加。但しスポンサーの内資・外資割合は変わらず
「CDE相談の現況(2022年6月6日発行、第24号)」でも少し触れましたが、2022年6月1日(水)、CDEから「2021年度医薬品審査報告書」が発表され、NMPAやCDEのwebsiteで公開されました。
(https://www.nmpa.gov.cn/xxgk/fgwj/gzwj/gzwjyp/20220601110541120.html)
繰り返しとなりますが、中国の治験数は、中国薬事規制改革が軌道に乗り始めた2018年頃から急増しています。IND申請受理件数の経年変化は、2018年: 786件 → 2019年: 1,021件(前年比+29.9%) → 2020年: 1,548件(前年比+51.6%) → 2021年: 2,412件(前年比+55.8%)と、加速度的に増加しました。(2021年度医薬品審査報告書の図3参照)

一方、2022年6月7日(火)、CDEから「中国新薬承認申請用臨床試験進展年度報告書2021年」も発表され、CDEのwebsiteで公開されました。
(https://www.cde.org.cn/main/news/viewInfoCommon/1839a2c931e1ed43eb4cc7049e189cb0)
こちらは、該当期間こそ2021年1-12月と同じであるものの、6月1日発表の「審査報告書」とは異なり、2021年1-12月に中国CDE websiteのプラットフォームに登録された臨床試験情報に関する年度報告となります。中国でCDE websiteへの臨床試験登録が開始されたのは2013年9⽉のことであり、既に8年余の歴史を有しますが、今回は、2021年11⽉10⽇発表の2020年1-12⽉分に続く2回目の発表です。
今年6月7日発表の「臨床試験進展年度報告書」で、まず注目したのは、22頁の第二章「六、臨床試験の国内外分布」の項です。2020年分の報告書の記載内容も参照しつつ、本文を要約すると、「2021年の新薬の臨床試験のうち、国際共同試験MRCTは15.8% (321/2,033件) あったが、依然として大部分は国内試験84.0% (1,708/2,033件) で占められていた」という記述ならびに表1となります。

すなわち、2020年から2021年にかけて、新薬の臨床試験数は、国内試験443本(1,265→1,708)、MRCT 113本(208→321) が各々増加しましたが、MRCTの増加率(+54.3%)は国内試験の増加率(+35.0%)を上回っており、中国の新薬臨床試験におけるMRCTの割合も年々上昇しています。
中国で新薬のMRCT数を押し上げているのは、主として米欧を中心とする外国企業です。
今年6月7日発表の「臨床試験進展年度報告書」で、次に注目したのは、9頁の第二章「一、スポンサーのタイプ」の項です。2020年分の報告書の記載内容も参照しつつ、本文を要約すると、「過去3年間、スポンサーのタイプの割合にほとんど変化はなく、国外企業は全体の3割弱を占めている」という記述ならびに表2となります。

中国では近年、凄まじい数の新興バイオテック国内企業が次々と創設され、破竹の勢いで中国国内治験等を開始していますが、実は米欧を中心とする国外企業による中国治験の増加率は、目下急増中の中国国内企業による治験増加率と比べて遜色ないのです。
すなわち、中国薬事規制改革開始以降、米欧を中心とする外国企業による中国治験投資は大きく拡大してきています。
2. 日系大手製薬企業4社の2022年3月期決算ならびにClinicalTrials.gov/中国CDE website登録臨床試験情報から中国部分を比較してみる
では、日系企業はどうでしょうか? 読者の皆さまの想像どおりかもしれませんが、決算報告書の中で、中国の売上収益に言及している日系製薬企業は多くありません。その中で、次の表3と表4に示す日系大手製薬企業4社は、中国の括り方に違いこそあれ、いずれも中国の売上収益に言及していましたので、同じ表の中に4社を入れて比較してみました。
まず、表3ですが、4社の中で、全世界の売上収益に占める中国の比率が最も高かったのは、エーザイ(14.1%)でした。エーザイは、おそらく全ての日系製薬企業の中で、中国の売上収益比率が最も高いのでは、と予想しています。他の3社の中国の売上収益比率は全世界の売上収益の概ね5%+α程度と映りました。なお、4社間で日本の売上収益比率(裏を返せば海外売上収益比率)には差がありました。
中国の医薬品市場規模は、現在、日本の2倍超ありますし、米欧の大手製薬企業の中には、日本の売上収益より中国の売上収益の方が高い会社が複数ありますので、日系大手製薬企業も、中国の売上収益には、まだまだ伸びしろがあると期待しています。

次いで、表4ですが、4社とも、現在、日本の半数程度は、中国で臨床試験を実施中です。比較可能な過去データが今すぐパッと出て来ないのですが、各社いずれも、近年、中国治験が急激に増えている印象です。すなわち、中国薬事規制改革開始以降、日系大手製薬企業4社による中国治験投資は大きく拡大してきているように感じます。表3で見える現在の売上収益と比べて、将来の売上収益における日中格差は、相当縮まるものと予想されます。
なお、表4において、ClinicalTrials.govとCDE websiteで中国の臨床試験数に差異が生じているのは、「非IND下で行われる通常のPhase 4試験などはCDE websiteに登録されない」、「共同開発においてパートナー会社が主体的に行う臨床試験は、中国CDE websiteにおいては自社臨床試験(申請人:自社)としてカウントされない」といった理由などが考えられます。

3. 終わりに
中国が医薬品市場規模で日本を追い越したのは2013年頃ですが、今では日本の2倍超~約3倍規模となりました。日本は2026年にはドイツにも抜かれ、医薬品市場世界第4位に後退すると昨年末あたりから、しきりに囁かれています。
2015年頃から始まった中国薬事規制改革以降、中国企業の米欧日への進出は加速し、米欧企業の中国進出も加速しています。一方、日系企業の中国進出はあまり加速しているようには見えません。今号で取り上げた日系大手4社はじめ、中国規制改革開始以前から中国でしっかりと土台を築き上げている日系製薬企業は、規制改革開始以降、さらに中国の開発やビジネス等の機能を強化していますが、中国規制改革開始以前に中国に懐疑的/消極的であった日系企業の多くは、今も様子見のままかもしれません。すなわち、日系企業間では、現在、中国に対する考え方や取り組みに二極化が進んでいるようです。
確かに中国には、新薬の保険償還を見据えた価格設定時の談判や特許期間満了後の国家集中入札購入制度など、日米欧とは異なる収益面でのdownside riskが存在します。しかし、チャイナリスクという聞き心地のよい御旗のもとに、皆でこぞって医薬品市場世界第2位の中国をできるだけ避け、日本や米国など比較的安心感の高い従来の土俵だけで勝負しようと続けていると、将来的には、皆で揃って「茹でガエル」となって、生き残りの厳しい世界の医薬品市場の中で競り負けてしまうかもしれない、といった焦りも感じます。
世界の医薬品市場の先を見越すのは、極めて難しい…
「医薬研発達人」では、今後も継続して読者の皆さまに有益な情報を発信できますよう、努力を重ねて参ります。今月から始まる2年目も、何卒よろしくお願い申し上げます。
医薬研発達人創刊1周年記念日を迎えて
文 | 毛 冬蕾(Mao, Donglei)
時は瞬く間に過ぎ去り、7月5日で「医薬研発達人」が1歳になりました。創薬業界に日本と中国の医薬事情を紹介する初のWeb雑誌を発行するため、高野 哲臣先生、植村 昭夫博士、英淑さん、琳琳さんと私は、半年かけてこの雑誌の準備を行い、業界の専門家のための日本語雑誌の目指すべき方向性と実現可能性について話し合いました。
また、創刊号の文章を熱く議論し、発行前日に徹夜でロゴをデザインし,最終的に高野編集長の提案で「医薬研発達人―日中両国のさらなる医薬の発展の架け橋」をSloganとして決定しました。発行前日に、我々はまるで赤ちゃんの誕生を待っているようにドキドキしていました。その記憶がいまだに私の頭の中には、昨日のように鮮明に残っています。
本雑誌の特徴であるオリジナル記事のみを集め、この1年間で計26号が発行されました。各号には、製薬業界に長年経験を持つ編集長高野 哲臣先生が興味深い洞察を加えた「編集長コメント」を先頭に、本文記事では中国医薬業界の大きな出来事やその変化を深く掘りあげ、なるべく日本の読者に理解しやすいように内容を工夫しています。記事の品質を確保するために、各記事の内容と視点は、編集部によって詳細に議論された上、翻訳経験を持つ専門家ら英淑さん、琳琳さん、项 安波博士、郁 亮社長、李 白博士、乔 红博士などによって翻訳された後、植村 昭夫博士がすべての文脈、文の詳細および句読点などを厳密に修正し、高野編集長が最終審査を行います。
それでは、この1年間に我々が報道された中国のバイオ医薬品産業における変化についてまとめてみたいと思います。
変化1:Me tooからFirst in Classへ
従来、Me too医薬品は中国のバイオ医薬品企業にとって研究開発の主流を形成していましたが、近年では、各企業はもはやMe tooで満足できず、Best in Class、さらにはFirst in Class薬の開発に注力し始めました。基礎研究分野の科学者らは、薬物標的の発見から分子設計まで、差別化のための研究に没頭しています。現在、中国企業は、二重抗体、マルチ抗体、核酸薬、遺伝子編集細胞治療薬などの研究開発に携わっています。また、AI創薬技術により、ターゲットスクリーニングを迅速かつ正確に行うことができるようになり、中国でも熱い話題となっています。
変化2:化合物の革新から臨床ニーズ指向へ
2021年末にCDEより「臨床価値指向の抗腫瘍薬の臨床研究開発ガイドライン」が公表されて以来、CDE、研究開発スタッフおよび臨床研究者は、患者の声に重点を置き、臨床ニーズから医薬品の開発を志向するようになりました。同時に、患者にとってますます教育機会が増え、臨床試験の意識が高まり、積極的に臨床試験を選択し、患者自身の考えを表明する能力が増しています。
変化3:抗腫瘍薬から希少疾患薬、小児薬開発へ
従来では中国の新薬の研究開発は、主に抗腫瘍薬を中心としていました。しかし、昨年に承認された47件の新薬および3358件のIND申請からみると、この現象は変化し始めています。中国の新薬開発は、希少疾患薬、小児薬、精神神経薬、眼科薬などの新しい適応症にシフトし始め、異なる疾患スペクトルの患者のニーズを満たすように変化してきています。これは、CDEが新しいガイドラインを導入し続け、業界の方向をリードしていることも関係しているとみられます。
変化4:資本市場は「夏」から「冬」へ
昨年頃から、中国の資本市場におけるバイオ医薬品への投資ブームは徐々に下火になってきています。今年に入ってから、中国の医薬品市場は「弱気な市場」、すなわち株価の持続的低下を経験し、新型コロナの流行によって資本の足がかりをブロックされ、バイオ医薬品会社の評価は低下し、二次市場の株価が下落し続け、市場は非常に悲観的になっています。しかし、独自に医薬品発見技術プラットフォームを持って、新しい標的発見の能力および新しい分子の設計能力を有する企業は、依然として大きな投資を受け取っています。優れた研究開発能力や臨床価値のある製品および強力な販売能力を持つ企業が投資家の好感を得られやすいと考えられます。我々は、中国の生物医学の未来に大きな期待を持っています。
変化5:単一の中国の臨床データからMRCTへ
中国のバイオ医薬品企業は、米国、ヨーロッパと日本に市場を開拓しようとしています。『医薬研発達人』第19号には、ある中国の企業が中国の単一臨床データを用いて米国BLA申請で失敗した事例を報告しました。この事例に見られるように、海外へ進出するためには、中国企業がFDAの要求を満たすために、ICHガイドラインに従ってMRCT臨床研究を行う必要性があると考えられます。一方、CDEは、グローバル同時開発を推奨しており、海外臨床研究データを受け入れ、外資系企業が中国でより多くの早期臨床試験を実施し、中国での市場投入を加速するよう促しています。2021年には80の海外で承認された先発医薬品が中国で承認されたが、過去3年間で最高記録を更新しました、その内、臨床上緊急必要とされるリスト(81品目)に載っていた品目が13含まれていて計51品目も承認されたことになります。
変化6:従来型の臨床試験からDCTへ
過去2ヶ月間、上海など一部の都市は、新型コロナの流行によるロックダウンされ、臨床試験に大きな影響を与えました。被験者は医療施設に来院できないため、関連データをタイムリーに収集できませんでした。したがって、分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trials、DCT)を早く進めることが重視され、多くの企業や医療施設は、インターネットやWeChatなどを活用し、封鎖の影響を軽減するための一連の対応策を模索し始めました。
変化7:新薬の医療保険収載時間は数年から数ヶ月へ
過去には、新薬は、市販開始から医療保険リストに収載までの時間が4-9年で平均54.2ヶ月掛かりましたが、今では、新薬が承認されると、市販開始半年未満で薬価交渉に参加できるようになりました。例えば、信達生物(Innovent)のPD-1抗体sintilimabについて、2022年6月24日にNMPAによって承認された6番目の適応症(非切除性局所進行、再発性生転移性胃または胃食道の境界における腺癌の第一線治療)は、下半期の薬価交渉で議論されることになっています。医療保険リストへの収載加速により、患者に新薬がいち早く手に届けられ、患者が負担可能な価格で使用できるようになりました。
変化8:スピードの追求から品質の追求へ
中国のバイオ医薬品は、急速な発展の時期を経て、新薬の研究開発において大きな成果をあげる一方、企業と製品の品質の不均一性と均質化競争の欠点をもたらしています。日本製薬業界のように、医薬品の品質を常に追求し改善し続けることは、中国のバイオ医薬発展の重要な課題となっています。
上記では中国の医薬品産業の変化について述べましたが、変化していないのは、われわれ「医薬研発達人」スタッフの初心です。我々は、中国と日本の医薬業界同士がより良い医薬品創出を目指して協力することを応援し、有用でオリジナリティの高い記事を提供し続けていきたいと思っています。

「医薬研発達人」の編集部の写真
創刊以来、本Web雑誌を読み続けてくださっている日本の読者の皆様に心から感謝申し上げます。また、中国語の記事の執筆から翻訳者による翻訳、レビュアーの編集、編集長の最終審査に至るまで、同僚らの熱意、誠実さおよび献身的な精神を大変心強く思っています。翻訳および編集スタッフの努力に心から感謝致したく、2年目、3年目の記念日を心待ちにしたいと思います。日中友好が継続され、日中の医薬交流が明るい未来目指して前進するよう、心から願っております。その目的のため、医薬研発達人は、日中両国のさらなる医薬発展への架け橋に常になって行きたいと思います。
日本語訳と編集、レビューをいただいた石薬集団チーフメディカルオフィサー項 安波(Xiang,Anbo)博士、PROSWELL日本事務所代表 文 英淑(Wen,Yingshu)、医薬品開発コンサルタント植村 昭夫博士、医薬研発達人編集長高野 哲臣氏に深く感謝申し上げます。
前号までの記事は下記からご覧いただけます。
第23号:CDEのバイスペシフィック抗体医薬品ガイドラインがもたらすもの
第22号:中国製薬メタモルフォーゼ: BiotechからBiopharmaへ
第21号:中国における小児用医薬品開発の課題―現状を打破するにはー
第20号:2020年に登録された中国臨床試験の全体像から分かること
第19号:中国の製薬会社は、米FDAにおける信達生物製薬(Innovent)の経験から何を学ぶべきか?
第15号:2018~2021:過去4年間の創新薬の承認状況を振り返って
第13号:呉一龍教授:中国は世界の臨床研究において、重要な役割を果たしている
第12号:第6回中国医薬創新投資大会(CBIIC):導入(Buy)、フォロー(Follow)、改良(Improve)から真のイノベーションへ
第11号:CDE化薬臨床1部 楊志敏部長ご講演聴講記 (第18回DIA日本年会2021)
第10号:CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出
第9号:2021年上半期の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析
第8号: 中国GVP (Good Vigilance Practice) の公布・施行
第7号: 協和キリン丁 锎氏:日中両国臨床データ相互利用を強化する可能性
第6号:臨床的価値に焦点を当てる優先審査と特別審査 |上市促進プロセス(下)
第5号:中国の画期的治療薬、条件付き承認を多角的に分析|上市促進プロセス(上)
第4号:武田薬品の王 璘:中国の薬品研究開発:世界に追いつき、世界の研究開発をリードする
第3号:1回日中ICH合同シンポジウム:日中協働と相互理解の促進
第2号:NMPAはどのようにICH管理委員会メンバーに再選されたのか?
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第26号

