今号では、抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate, ADC) を取り上げる。医薬研発達人でADCについて特集するのは、第35号(2022年11月7日発行)が初めてで、今回の第53号が2回目となる。
しかし、以下に挙げたとおり、第35号から第53号の間だけでも、第38号、第41号、第43号、第45号、第49号において、それぞれADCに関する記載が登場するなど、中国の医薬品開発において、ADCは現在hot topicのひとつである。
•第35号(2022年11月7日発行)「CDEが抗体薬物複合体(ADC)ガイドライン(案)を発出」
•第38号(2022年12月19日発行)「25th CSCO 2022 -CDE Session報告」中の「抗腫瘍抗体薬物複合体(ADC)の臨床開発と審査に関する考慮事項」(CDE化薬臨床1部 夏琳(Xia, Lin) Senior Reviewer)
•第41号(2023年1月30日発行)「2022年の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析」中の科倫博泰(Kelun-Biotech)、石薬集団(Shiyao Jituan, CSPC Pharma)、礼新医薬(LaNova Medicines)、多禧生物(DAC Bio)からの各ADC導出など
•第43号(2023年2月27日発行)「中国の伝統的なジェネリック医薬品企業はどのようにして創新薬創出企業に生まれ変わったのか?」中の中国の製薬企業4社 [恒瑞医薬(Hengrui Yiyao)、石薬集団(Shiyao Jituan, CSPC Pharma)、科倫薬業(Kelun Yaoye)、斉魯製薬(Qilu Zhiyao)]
•第45号(2023年3月27日発行)「第一三共の中国での野望」
•第49号(2023年5月22日発行)「PhIRDA宋瑞霖執行会長ご講演聴講記」中の引用5
第35号(2022年11月7日発行)の編集長コメントや今号の本文中に記載したように、中国国産ADCの中国承認第1号は、わずか2年前の2021年6月に承認された荣昌生物医药 Rongchang Pharmaceuticals, RemeGenの「维迪西妥单抗 disitamab vedotin, RC48, 爱地希 Aidixi (HER2)」であり、まだまだ歴史が浅い。
しかし、本文中の表も示すとおり、中国企業からのADC導出は、2021年以降、大型契約が連発していて、
•荣昌生物医药(Rongchang Pharmaceuticals, RemeGen)→米国Seagen、
•科倫博泰(Kelun-Biotech)→MSD、
•多禧生物(DAC Bio)→Johnson & Johnson、
•石药集团(Shiyao Jituan, CSPC Pharma)→米国Elevation Oncology、
•石药集团(Shiyao Jituan, CSPC Pharma)→米国Corbus Pharmaceuticals、
•康诺亚生物医药(Keymed Biosciences)/乐普生物(Lepu Biopharma)→AstraZeneca
等々、Global Giant PharmasやADC開発の先駆者Seagen (2023年3月13日、Pfizerが買収を発表。2023年後半あるいは2024年初頃にPfizerによる買収完了か?) を含む米国企業らがlicenseeに名を連ねるなど、中国国産ADCの高いpotentialは既に世界から認められている。
また、このような中国国産ADCの急速な出海/グローバル化/導出を後押しするように、CDEの各種ADCガイドライン(臨床, 非臨床, CMC)も急ピッチで整備が進められている。
これまでにADCに関してCDEから発出された4件のガイドライン (最終版1件+(案)についてのパブコメ3件)
発出年月日 |
タイトル |
2022年7月6日 |
「抗体薬物複合体の非臨床研究に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
2022年9月15日 |
「抗腫瘍抗体薬物複合体の臨床開発に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
2023年4月7日 |
抗腫瘍抗体薬物複合体の臨床開発に関する技術ガイドライン (2023年第25号) [中日医薬情報ネットによる日本語訳] (通知のみ) |
2023年6月21日 |
「抗体薬物複合体の薬学研究と評価に関する技術ガイドライン(案)」についてのパブコメ |
(CDE websiteの掲載情報から筆者にて抽出ならびに翻訳)
なお、今号の中国語オリジナル記事「中国ADC厚积薄发十年,三年腾飞?」の発行日は、今年4月26日であったが、それ以降、本日7月31日までの約3カ月の間に、中国企業からのADC導出等に関する新たなニュースがいくつか見られたので、以下にて補足する。
•2023年5月8日発表、BB-1701、百力司康生物医药(杭州) Bliss Biopharmaceutical→エーザイ
(https://www.blissbiopharma.com/Details?_l=en&article_id=112)
(https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202330.html)
•2023年7月7日発表、5 ADCs、后德医药 GeneQuantum Healthcare & 韓国Aimed Bio
(http://www.genequantum.com/#/detail/news?pid=20&type=9&id=451)
(https://www.aimedbio.com/media/media_01_view.php?no=14&s_keyword=&s_where=&start=0)
•2023年7月10日発表、for solid tumors、映恩生物 Duality Biologics→百济神州 BeiGene
(https://www.dualitybiologics.com/newsinfo/index/70.html)
(https://ir.beigene.com/news/beigene-and-dualitybio-announce-partnership-to-advance-differentiated-antibody-drug-conjugate-adc-therapy-for-solid/8420cc36-bac6-4716-85e6-92db7b665f9b/)
医薬研発達人第35号(2022年11月7日発行)の編集長コメントでも述べたが、中国国産創新薬のブームは、既にPD-1やCAR-TからADC/バイスペシフィック抗体にシフトしている。
しかし、以前と大きく異なるのは、これまでの歴史や経験や教訓などがフルに駆使されたことによって、中国国産ADC/バイスペシフィック抗体のpotentialや見込み成功確率が飛躍的に向上したことである。
米欧日のGlobal Giant Pharmasが中国企業からこぞって導入していることからも分かるように、その科学レベルは今や世界最先端で米欧日とconcurrentで競うところまで達しており、それがわずかここ3年で一気に花開いたことを物語っている。
⾼野 哲⾂(Fortrea Japan)(Labcorp Development Japanの臨床開発部⾨は2023.5.1付でFortrea Japanに社名変更いたしました)
前号までの記事は下記からご覧いただけます。
第51号:第15回DIA中国年会報告(第一弾) 中国バイオテク企業が日本へ進出するということ
第50号:呉洪福教授:中国は日本の幹細胞産業から何を学べるか
第48号:中国において抗悪性腫瘍薬の単群試験が適用となる6つのケース
第47号:2022 CBIICにて中国医薬品規制改革の成功の軌跡と今後の課題を見る
第46号:2023年度中国国家医療保険償還医薬品リスト(NRDL)交渉結果
第44号:中国における中枢神経系医薬品の研究開発:果てしない闇を越えて
第43号:中国の伝統的なジェネリック医薬品企業はどのようにして創新薬創出企業に生まれ変わったのか?
第42号:王娜アステラス中国開発本部長:アステラスは中国を含む世界同時開発を一歩一歩実現させる
第40号:中国は「患者を中心とする」新薬臨床開発の時代を開く
第39号:医薬研発達人第39号:2023年新春挨拶
第38号:25th CSCO 2022-CDE Session報告
第37号:海南博鰲(ボアオ)楽城国際医療観光先行区における「中国市場先行参入」の道
第35号:CDEが抗体薬物複合体(ADC)ガイドライン(案)を発出
第34号:DIA AsiaとDIA日本年会を通じて得られた中国に関する知見
第33号:住友ファーマ中国 纐纈 義隆氏:中国での新たな挑戦
第31号:中国における細胞及び遺伝子治療製品の審査概要と業界動向
第29号:中国における医薬品の臨床試験中ならびに市販後の変更
第28号:張 剣教授:中国の若手研究者により多くの成長の機会を!
第27号:中国バイオのイノベーションを投資市場の視点から切る
第26号:医薬研発達人創刊1周年に寄せて (2022年7月4日発行、第26号)
第23号:CDEのバイスペシフィック抗体医薬品ガイドラインがもたらすもの
第22号:中国製薬メタモルフォーゼ: BiotechからBiopharmaへ
第21号:中国における小児用医薬品開発の課題―現状を打破するにはー
第20号:2020年に登録された中国臨床試験の全体像から分かること
第19号:中国の製薬会社は、米FDAにおける信達生物製薬(Innovent)の経験から何を学ぶべきか?
第15号:2018~2021:過去4年間の創新薬の承認状況を振り返って
第13号:呉一龍教授:中国は世界の臨床研究において、重要な役割を果たしている
第12号:第6回中国医薬創新投資大会(CBIIC):導入(Buy)、フォロー(Follow)、改良(Improve)から真のイノベーションへ
第11号:CDE化薬臨床1部 楊志敏部長ご講演聴講記 (第18回DIA日本年会2021)
第10号:CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出
第9号:2021年上半期の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析
第8号: 中国GVP (Good Vigilance Practice) の公布・施行
第7号: 協和キリン丁 锎氏:日中両国臨床データ相互利用を強化する可能性
第6号:臨床的価値に焦点を当てる優先審査と特別審査 |上市促進プロセス(下)
第5号:中国の画期的治療薬、条件付き承認を多角的に分析|上市促進プロセス(上)
第4号:武田薬品の王 璘:中国の薬品研究開発:世界に追いつき、世界の研究開発をリードする
第3号:1回日中ICH合同シンポジウム:日中協働と相互理解の促進
第2号:NMPAはどのようにICH管理委員会メンバーに再選されたのか?
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