医薬研発達人編集長 高野哲臣(Fortrea Japan

(2023925日発行、第57)

 

 

2023911日発行の前号第56号で述べたように、202396()CDEから「2022年度审评报 2022年度医薬品審査報告書」(が発行され、その翌日の202397()CDEから「中国新注册试验进展年度(2022)」「中国新薬承認申請用臨床試験年度報告書(2022)(が発行された。

 

今回の医薬研発達人第57(2023925日発行)では、2021年分のこれらCDE Annual Reportsについて言及した医薬研発達人第24(202265日発行)CDE相談の現況」に引き続き、2022年分の上記2つのCDE Annual Reportsについていくつかの解釈を述べる。

 

なお、昨年の第24号では日本との比較に焦点を当てたが、今回の第57号では、20223月末から5月末まで上海市でロックダウンが行われたことに代表される「ゼロコロナ政策」の推進によって中国社会が新型コロナ感染症の影響を最も受けた2022年の中国のIND/NDAや治験はどのような状況であったのか? という観点で紐解いてみたい。

(2022年の中国のIND/NDAや治験に関する2022年末時点での筆者の解釈は、医薬研発達人第38(20221219日発行)25th CSCO 2022 – CDE Session報告」編集長コメント欄参照)

 

 

1.  2022年の中国のIND/NDA申請受理件数は、いずれも2021年より減少

中国のIND申請受理件数の経年変化を見ると、2018: 786 → 2019: 1,021(前年比+29.9%) → 2020: 1,548(前年比+51.6%) → 2021: 2,412(前年比+55.8%)と、年々大きく伸びていたものの、2022年は2,244件であり前年より6.97%減少した。

 

また、中国のNDA申請受理件数の経年変化を見ると、2018: 200 → 2019: 257(前年比+28.5%) → 2020: 323(前年比+25.7%) → 2021: 389(前年比+20.4%)と、年々伸びていたものの、2022年は334件であり前年より14.1%減少した。

(2022年度医薬品審査報告書の図3参照)

 

 

中国の2022: 2,244件のIND申請受理件数のうち、1,733(77.2%)は創新薬(世界のどこの国・地域においてもまだ発売されていない新有効成分)で占められていた。その内訳は、創新中薬が37薬剤39試験、創新化学薬品が465薬剤1,046試験、創新生物製剤が467薬剤648試験で、計969薬剤1,733試験であった。なお、2022年の創新中薬と創新化学薬品のIND申請受理件数は2021年より減少していたが、2022年の創新生物製剤のIND申請受理件数に限っては2021年より増加していた。

 

中国の2022: 334件のNDA申請受理件数のうち、61(18.3%)は創新薬(世界のどこの国・地域においてもまだ発売されていない新有効成分)で占められていた。その内訳は、創新中薬が9薬剤10件、創新化学薬品が16薬剤29件、創新生物製剤が16薬剤22件で、計41薬剤61件であった。なお、経時推移を見ると、2020年から2022年の創新化学薬品と創新生物製剤のNDA申請受理件数はあまり変化していないように感じた。(2022年度医薬品審査報告書の表1、図4、図5参照)

 

 


 

 

 

2.  CDE相談件数はさらに増加中 (2022年の取扱件数は4,349件で前年比10.2%)

 

2021年度医薬品審査報告書」によれば、中国のCDE相談件数(弁理。申込が受理された後、交流条件に合致すると判断された取扱件数)は、2018: 1,326 → 2019: 1,871(前年比+41.1%) → 2020: 2,451(前年比+31.0%) → 2021: 3,946(前年比+61.0%)となっていて、IND申請数の急激な増加に呼応して、CDE相談件数も飛躍的に伸びていた。(2021年度医薬品審査報告書の図38参照)

 

一方、「2022年度医薬品審査報告書」によれば、2022年の中国のCDE相談件数は、申込受理件数が4,924(前年比+10.7%)、取扱件数が4,349(前年比+10.2%)と、爆発的な伸びこそ落ち着いたものの、過去最高値であった2021年と比較してさらに伸びていた。

 

2017-2022年のCDE相談件数(申込受理件数と取扱件数)の推移

 

2017

2018

2019

2020

2021

2022

申込受理件数

840

1,982

2633

3,229

4,450

4,924

(前年比)

-

+136.0%

+32.8%

+22.6%

+37.8%

+10.7%

取扱件数

635

1,326

1,871

2,451

3,946

4,349

(前年比)

-

+108.8%

+41.1%

+31.0%

+61.0%

+10.2%

(2021年度、2022年度医薬品審査報告書から筆者にて抽出ならびに加筆)

 

さて、2022年の中国のCDE相談件数(取扱件数): 4,349(前年比+10.2%)の内訳は、Pre-IND1,299(29.87%)Pre-NDA456(10.49%)I類会議が765(17.59%)III類会議が902(20.74%)等となっていた。2021年と比べると、これら4つのカテゴリーではいずれの数も増えていたが、とりわけI類会議(538765)III類会議(676902)の増加が顕著で、構成比において3-4ポイント上昇していた。(2021年度医薬品審査報告書の表182022年度医薬品審査報告書の表24参照)

 

 

20201211日にCDEから通知され、同日施行された「医薬品の臨床開発と技術審査に関するコミュニケーション管理弁法(2020年第48)の第7条によれば、中国では、First in Chinese試験(但し米欧日でIND承認済の国際共同試験等は除く)の際の最初のIND申請時の「Pre-IND相談」、ならびに生物製剤のNDA申請時(中国にはBLA申請制度は無い)の「Pre-NDA相談」は、原則として必須となっている。また、外国臨床データのみで、中国人臨床データ免除にて中国NDA申請に臨もうとする際は、「Pre-NDA相談」の枠組みとなる。もちろん、言うまでもなく、創新薬にとって、「Pre-IND相談」と「Pre-NDA相談」は、極めて重要である。

 

しかしながら、CDE相談件数(弁理。すなわち取扱件数)の経時推移で見ると、「Pre-IND相談」が2019: 34.9% (653/1,871) → 2020: 37.5% (919/2,451) → 2021: 32.8% (1,296/3,946) → 2022: 29.9% (1,299/4,349)、「Pre-NDA相談」が2019: 10.3% (193/1,871) → 2020: 13.2% (324/2,451) → 2021: 11.0% (436/3,946) → 2022: 10.5% (456/4,349)と、件数こそ増加が維持されているが、構成比においては2021年、2022年と連続して微減していた。

 

 

3.  対面助言(web会議・電話会議を含む)の回数は2021年とほぼ同数でさらに狭き門に

 

CDE相談のうち、対面助言(web会議・電話会議を含む)の割合は、2019年以降、継続して減少していた。

 

2021年度医薬品審査報告書」と「2022年度医薬品審査報告書」によれば、CDE相談に占める対面助言(web会議・電話会議を含む)の割合は、2018: 24.3% (322/1,326) → 2019: 22.5% (421/1,871) → 2020: 10.9% (268/2,451) → 2021: 10.8% (425/3,946) → 2022: 9.7% (424/4,349)と、対面助言の回数は(コロナ禍初年でCDEと相談者側の双方で対応が追い付かなかった2020年を除き)毎年増加してきているものの、回数がキャパシティに近づくにつれ、対面助言の割合は低下し、一層狭き門となった。すなわち、相談者側の需要はまだまだ満たされていない状況と考えられた。(2021年度医薬品審査報告書の表192022年度医薬品審査報告書の表25参照)


 

4.  2022年の中国における治験タイプ(国内試験/MRCT)と治験スポンサー(国内企業/国外企業)の分布

 

「中国新薬承認申請用臨床試験年度報告書2022年」によれば、中国のCDE website登録臨床試験数は、2019: 2,386 → 2020: 2,602(前年比+9.1%) → 2021: 3,358(前年比+29.1%) → 2022: 3,410(前年比+1.5%)であり、2022: 3,410本の内訳は、新薬臨床試験: 1,974本、BE試験: 1,436本であった。

 

医薬研発達人第26(202274日発行)医薬研発達人創刊1周年に寄せて」において、「中国新薬承認申請用臨床試験年度報告書2020 & 2021年」を用いた中国における治験タイプ(国内試験/MRCT)と治験スポンサー(国内企業/国外企業)の分布に関する分析を行ったが、今回も「中国新薬承認申請用臨床試験年度報告書2020, 2021, 2022年」を用いて同様の分析を行ったので、以下の表Aと表Bに示す。

 

 

中国における治験タイプの国内試験/MRCTの分布は、2020-2022年にかけて、大きな変化はなく、国内試験が約85%MRCTが約15%で安定していた。(A)

 

 

中国における治験スポンサーの国内企業/国外企業の分布は、2019-2022年にかけて、大きな変化はなく、国内企業が約80%、国外企業が約20%で安定していると考えられた。

すなわち、国外企業がスポンサーの治験数は2021: 449 2022: 392本と微減であったことから、実態としては、国外企業による治験割合が半減したのではなく、(ほぼほぼ国内試験で占められる)BE試験が分母となる試験対象に加えられたことによる算出方法変更に起因したのではないか、と推測された。(B)



 

5.  まとめ

 

上記の解釈のサマリを以下に示す。

2022年の中国のIND/NDA申請数は、いずれも2021年より減少した。

一方、2022年のCDE相談件数は、過去最高値であった2021年よりさらに増加し、対面助言(web会議・電話会議を含む)の機会は、2021年と比べてさらに狭き門となった。

2022年の中国のCDE website登録臨床試験数は、2021年とほぼ同数であった。

中国における治験タイプ(国内試験/MRCT)と治験スポンサー(国内企業/国外企業)の分布には、ここ数年間、大きな変化がなく、引き続き、国内企業は国内試験に力を入れ、MRCTは主として国外企業によって実施されている棲み分けが見てとれた。

 

2023年の中国は、新型コロナ感染症の影響が2022年より遥かに少ないこともあり、2023年の中国のIND/NDA申請数は、再び増加に転じ、2023年の中国のCDE website登録臨床試験数は、2022年より大きく増加するのでは、と筆者は予想している。


前号までの記事は下記からご覧いただけます。
第56号: 中国における自己免疫疾患治療薬の開発競争: 勝者は誰か?
第55号:CDEの『新薬のベネフィット•リスク評価』ならびに『患者を中心とする臨床試験のデザイン/実施とベネフィット•リスク評価』に関する技術ガイドライン
第54号: ASEANは中国のBiotech/Biopharmaにとって良い市場か?

第53号:中国のADC–10年の蓄積と3年の飛躍–
第52号:第15回DIA中国年会報告(第二弾)  医薬研発達人創刊2周年記念号

第51号:第15回DIA中国年会報告(第一弾)    中国バイオテク企業が日本へ進出するということ

第50号:呉洪福教授:中国は日本の幹細胞産業から何を学べるか

第49号:PhIRDA宋瑞霖執行会長ご講演聴講記

第48号:中国において抗悪性腫瘍薬の単群試験が適用となる6つのケース

第47号:2022 CBIICにて中国医薬品規制改革の成功の軌跡と今後の課題を見る

第46号:2023年度中国国家医療保険償還医薬品リスト(NRDL)交渉結果

第45号:第一三共の中国での野望

第44号:中国における中枢神経系医薬品の研究開発:果てしない闇を越えて

第43号:中国の伝統的なジェネリック医薬品企業はどのようにして創新薬創出企業に生まれ変わったのか?

第42号:王娜アステラス中国開発本部長:アステラスは中国を含む世界同時開発を一歩一歩実現させる

第41号:2022年の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析

第40号:中国は「患者を中心とする」新薬臨床開発の時代を開く

第39号:医薬研発達人第39号:2023年新春挨拶

第38号:25th CSCO 2022-CDE Session報告

第37号:海南博鰲(ボアオ)楽城国際医療観光先行区における「中国市場先行参入」の道

第36号:中国における眼科領域新薬開発の現況

第35号:CDEが抗体薬物複合体(ADC)ガイドライン(案)を発出

第34号:DIA AsiaとDIA日本年会を通じて得られた中国に関する知見 

第33号:住友ファーマ中国 纐纈 義隆氏:中国での新たな挑戦

第32号:中国におけるリアルワールドデータの活用

第31号:中国における細胞及び遺伝子治療製品の審査概要と業界動向

第30号:中国における抗悪性腫瘍薬併用療法の開発トレンド

第29号:中国における医薬品の臨床試験中ならびに市販後の変更

第28号:張 剣教授:中国の若手研究者により多くの成長の機会を!

第27号:中国バイオのイノベーションを投資市場の視点から切る

第26号:医薬研発達人創刊1周年に寄せて (2022年7月4日発行、第26号)

第25号:2022年日中医薬健康交流会報告

第24号:CDE相談の現況

第23号:CDEのバイスペシフィック抗体医薬品ガイドラインがもたらすもの

第22号:中国製薬メタモルフォーゼ: BiotechからBiopharmaへ

第21号:中国における小児用医薬品開発の課題―現状を打破するにはー

第20号:2020年に登録された中国臨床試験の全体像から分かること

第19号:中国の製薬会社は、米FDAにおける信達生物製薬(Innovent)の経験から何を学ぶべきか?

第18号:中国の医療保険制度と薬価交渉の概観(下編)

第17号:中国の医療保険制度と薬価交渉の概観(上編)

第16号:中国の新しい希少疾病用医薬品臨床開発ガイドライン

第15号:2018~2021:過去4年間の創新薬の承認状況を振り返って

第14号:医薬研発達人第14号:新春挨拶

第13号:呉一龍教授:中国は世界の臨床研究において、重要な役割を果たしている

第12号:第6回中国医薬創新投資大会(CBIIC):導入(Buy)、フォロー(Follow)、改良(Improve)から真のイノベーションへ

第11号:CDE化薬臨床1部 楊志敏部長ご講演聴講記 (第18回DIA日本年会2021)

第10号:CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出

第9号:2021年上半期の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析

第8号:   中国GVP (Good Vigilance Practice) の公布・施行

第7号:  協和キリン丁 锎氏:日中両国臨床データ相互利用を強化する可能性

第6号:臨床的価値に焦点を当てる優先審査と特別審査 |上市促進プロセス(下)

第5号:中国の画期的治療薬、条件付き承認を多角的に分析|上市促進プロセス(上)

第4号:武田薬品の王  璘:中国の薬品研究開発:世界に追いつき、世界の研究開発をリードする

第3号:1回日中ICH合同シンポジウム:日中協働と相互理解の促進

第2号:NMPAはどのようにICH管理委員会メンバーに再選されたのか?

創刊号:医薬研発達人:日中両国のさらなる医薬発展への架け橋 |発刊にあたってのご挨拶

創刊号:なぜ、医薬研発達人を立ち上げたのか?|発刊にあたってのご挨拶

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第57

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