高野哲臣 (医薬研発達人編集長、t2T Healthcare代表取締役)
今号(2023年11月20日発行、第61号)では、2023/11/5(日)-7(火)に東京の有明セントラルタワーホール&カンファレンスで開催された第20回DIA日本年会2023から、初日に行われた大会長講演と2日目に行われたChina Townhallを中心に報告する。
1. DIA日本年会の歴史など
今回のDIA日本年会2023は、大阪大学医学部附属病院 特任教授 岩崎幸司氏を大会長に迎え、「時空を超えた知と技の融合 - Society 5.0 - による医薬品開発の再構築」というテーマで、日本年会としては2019年11月以来4年振りとなる完全in-personで開催された。
岩崎幸司第20回DIA日本年会大会長
今回、ブースなどexhibitorsを除く有料参加者数は、500名以上とお聞きしている。また、US-FDAはじめ米国、欧州、アジアからspeakers陣が来日するなど、実施体制もスケールも、コロナ禍前の賑わいに、だいぶ戻って来たように感じた。
岩崎大会長から許可をいただいたので、中国関係の情報ではないものの、今号の誌面をお借りして、初日14:15-14:45に行われた大会長講演「新時代の医薬品研究開発マネジメント~Society 5.0~ 時空を超えた知識とスキルの統合をめざして」のご発表の中から、今年第20回を迎えたこれまで20年のDIA日本年会の歴史について、読者の皆さまに紹介したい。
岩崎幸司教授によるDIA日本年会2023の大会長講演スライド26, 29, 28, 27頁 (掲載順)
今年6月に15回目を迎えたDIA中国年会にも当てはまるが、日本や中国(や米欧)のDIA活動で驚かされるのは、大会長、副大会長、プログラム委員会、座長、スピーカーなど、年会の中心メンバーの方々の息の長さである。
岩崎大会長ご自身も、2012年の第9回以降、12年連続して登壇し、合計20ものセッション/演題に貢献されているが、岩崎氏同様、これまで計20回のDIA日本年会の歴代の大会長、副大会長の方々の多くが、今も現役のbig contributorsである。
あらためて、これら産官学に所属するexpertsの方々の長年にわたるDIA活動等に代表される医薬品・医療機器・再生医療等製品などの発展への大いなるご貢献に心から感謝の意と敬意を表したい。
2. China Townhall
2日目11:15-12:45のChina Townhallは、以下の構成で実施された。
共同座長はPMDAの安田尚之執行役員(国際部門担当)と瀋陽薬科大学の苏岭(SU, Ling)教授。スピーカーはいずれもNMPAからで董江萍(DONG, Jiangping) CCFDIE主任、王骏(WANG, Jun) CDE統計及び臨床薬理学部長、韩聪凡(HAN Congfan) CFDI inspectorの3名。NMPAの3名に加えて産業界からのパネリストはTakeda Greater Chinaの刘艳玮(Joyce LIU, Yanwei) Regulatory Affairs HeadとTigermedのMs. Connie CHENの2名であった。
Session Description
•The Chinese government and the National Medical Products Administration (NMPA) are integral to the global regulatory system, particularly in Asia.
•At the same time, China has the magnificent goal of leapfrogging to be a great pharmaceutical power in the following years.
•In this Japan Annual Meeting (JAM), we set up the China Townhall, inviting the NMPA delegation and professionals in the Chinese drug R&D industry to share a current Chinese drug R&D outlook for JAM's audience via presentations and panel discussions.
•中国政府とNMPAは、世界の規制システム、特にアジアでの規制システムに不可欠な存在になっている。
•同時に、中国は今後数年で製薬大国に飛躍するという壮大な目標を持っている。
•今回の日本年会では、China Townhallを設定し、NMPA代表団及び中国医薬品研究開発業界の専門家を招き、 プレゼンテーションとパネルディスカッションを通じ、聴衆に、現在の中国の医薬品研究開発の展望を共有する。
Co-Chairs
Mr. Naoyuki Yasuda, Pharmaceutical and Medical Devices Agency (PMDA)
Mr. Ling Su, PhD, Shenyang Pharmaceutical University, Yeehong Business School
Presentations
1.Status of NMPA Drug Marketing Authorization System and International Cooperation
Ms. Jiangping DONG, China Center for Food and Drug International Exchange (CCFDIE), NMPA, China
2.Implementation of ICH E17 Guideline in China: Regulatory Considerations
Mr. Jun WANG, PhD, Center for Drug Evaluation (CDE), NMPA, China
3.Continuously Improving the Quality of Clinical Trials in China: Regulatory Oversight and Inspection Efforts
Ms. Congfan HAN, Center for Food and Drug Inspection (CFDI), NMPA, China
Panel Discussion
►Panel Discussion: all session speakers and following panelists:
Ms. Joyce LIU, Takeda Greater China
Ms. Connie CHEN, Tigermed Consulting Co., Ltd.
2-1. Status of NMPA Drug Marketing Authorization System and International Cooperation (Ms. Jiangping DONG, CCFDIE)
筆者の理解の範囲と注目点の観点から、董江萍氏の発表内容を次のように要約した。
•Part 1: NMPA Drug Marketing Authorization Systemでは、下記の紹介等があった。
√2019年8月26日改正→2019年12月1日施行の医薬品管理法(Drug Administration Law)の一部内容
√2020年3月30日公布→2020年7月1日施行の医薬品登録管理弁法(2020年1月22日 国家市場監督管理総局令第27号) (Drug Registration Regulation)の一部内容
√eCTD, eSubmission, eDrug Registration Certificateの開始状況
√2023年9月6日にCDEから発表された2022年度医薬品審査報告書の一部内容
•Part 2: NMPA International Cooperation on Drug Regulationでは、WHO、ICH、ICMRA、PIC/S等におけるNMPAの活動状況に関する紹介があった。
2-2. Implementation of ICH E17 Guideline in China: Regulatory Considerations (Dr. Jun WANG, CDE)
筆者の理解の範囲と注目点の観点から、王骏氏の発表内容を次のように要約した。
•2017年11月16日にfinalizeされた(Step 4に到達した) ICH E17 MRCT Guidelineは、中国では2019年11月12日に正式施行された。以後、CDEにおいて、全てのMRCT評価はE17に基づいているし、申請者とのコミュニケーションにおいても、E17に示された考え方を踏まえたMRCTの計画・プロトコルデザイン・実施とするよう助言している。
•とはいえ、E17にはoperational suggestionsが少なかったり、直近ではestimandsやinnovative designへの対応など、MRCT評価には依然として多くの課題がある。
•Sample Size Allocation to Regions (各地域への症例数配分) に関しては、CDEとしても、Proportional Allocation (比例配分) とEqual Allocation (均等配分) のバランスを取ることを推奨する。その際、全体的なallocation schemeは、regionの定義、regionの数、各regionの規模、各regionの罹患率によって定められる。
[筆者注: すなわち、CDEが要求する中国への症例数配分は、米国や欧州と比べて、決して少なくはならない]
•Pooling Strategyを使って、中国人データ(region)に代わって、東アジア人データ(pooled region, 例えば中国人+日本人など)を使おうとする場合には、early-phase studiesにおいてpooling strategyを支持するだけのより多くの適正なデータが必要である。その上で、intrinsic factorsだけでなくextrinsic factorsにおいてもpoolingを行うためのjustificationを行い、当該試験開始前にpooling strategyについてpre-specifyし、CDEと合意する必要がある。
[筆者注: 56の民族、14億の人口を擁する中国においても、東アジアにおけるpooled regionを使うに際しての規制当局からの要求はとても高く、できるだけコンパクトなclinical data packageでNDA申請を行いたい製薬企業心理からすると、pooling strategyはそれほど魅力的/現実的とは思えない。結局のところ、ほとんどのケースでpooling strategyを諦め、中国で承認取得したければCDEが要求する中国人症例数を、日本で承認取得したければPMDAが要求する日本人症例数を、それぞれindependentに組み入れる現状となっている]
2-3. Continuously Improving the Quality of Clinical Trials in China: Regulatory Oversight and Inspection Efforts (Ms. Congfan HAN, CFDI)
筆者の理解の範囲と注目点の観点から、韩聪凡氏の発表内容を次のように要約した。
なお、ご本人から了承をいただいたので、Ms. Congfan Hanのご発表から2 枚のスライドを引用させていただく。
•2022年、NDA申請に紐づく新薬(世界のどの国・地域でも承認されていない新有効成分)のGCP査察は、215の新薬で完了し、423のclinical sites、60のセントラルラボにおいて、延べ1,685名のGCP inspectorがon-site inspectionに参加した(スライド8頁)。
[筆者注: コロナ禍から回復した2022年はremote inspectionからon-site inspectionに戻っている。1,685名のinspectorで483のGCP査察を行っているので、一査察当たりのinspector数は3-4名ほどとなり、これに各site所在地のlocal FDAからobserverが加わる。「1新薬において、1施設当たり3日間滞在で、続けて2施設訪問する。その1セットを1週間で終える」というのが最近のGCP査察の基本パターンであるように拝察する]
•2022年、NDA申請に紐づく新薬のGCP査察において、計2,559のfindingsがあり、その内訳は、Critical findings: 4、Major findings: 127、Minor findings: 2,428であった(スライド12頁)。
[筆者注: 483のGCP査察において計2,559のfindingsであったので、一査察当たりのfindings数は平均5-6個ほど、うちMajor findingsは平均0.26個となる。中国の規制当局による罰則強化を含む薬事規制改革によって、近年、中国の治験の質が急速かつ劇的に高まっていることがこれら数字にも表れていると解釈する]
Ms. Congfan Hanのスライド8頁
Ms. Congfan Hanのスライド12頁
なお、2023年10月7日にCFDIから「CFDI 2022年度医薬品査察業務報告書」「国家药監局核查中心2022年度药品检查工作报告」(https://www.cfdi.org.cn/resource/news/15638.html) が発行され、今回のスライド8頁の発表内容のほか、GMP査察やGLP査察の結果概略なども掲載されているので、是非、ご参照いただきたい。
2-4. China Townhallのスナップ写真
China Townhallのパネルディスカッションの様子
China Townhall終了後、座長・スピーカー・パネリスト・協力者らによる集合写真
謝辞
第20回DIA日本年会2023の岩崎幸司大会長、DIA Japanの中森省吾代表理事・理事長、プログラム委員会はじめDIA日本年会関係者の皆さま、DIA Japan事務局の皆さま、今回のDIA日本年会でのご発表に加えスライドのご提供を含めて本記事へのご協力を賜ったNMPA speakersの皆さま、China Townhallの座長・パネリストの皆さま、DIA Chinaはじめ中国から来日された多くの協力者の皆さま、そして本記事への全面サポートをいただいた研発客/医薬研発達人の毛冬蕾同事に心より感謝申し上げます。
前号までの記事は下記からご覧いただけます。
第60号:秦叔逵教授:「がんの王様-肝臓がん」の治療法の進展
第59号: 条件付き承認制度を厳格化する新たな規制案は中国の創薬企業に影響を与えるか?第58号: DIAアジア会議2023における中国の規制/業界関連のトピックス
第57号: CDE Annual Reports 2022を紐解く
第56号: 中国における自己免疫疾患治療薬の開発競争: 勝者は誰か?
第55号:CDEの『新薬のベネフィット•リスク評価』ならびに『患者を中心とする臨床試験のデザイン/実施とベネフィット•リスク評価』に関する技術ガイドライン
第54号: ASEANは中国のBiotech/Biopharmaにとって良い市場か?
第53号:中国のADC–10年の蓄積と3年の飛躍–
第52号:第15回DIA中国年会報告(第二弾) 医薬研発達人創刊2周年記念号
第51号:第15回DIA中国年会報告(第一弾) 中国バイオテク企業が日本へ進出するということ
第50号:呉洪福教授:中国は日本の幹細胞産業から何を学べるか
第48号:中国において抗悪性腫瘍薬の単群試験が適用となる6つのケース
第47号:2022 CBIICにて中国医薬品規制改革の成功の軌跡と今後の課題を見る
第46号:2023年度中国国家医療保険償還医薬品リスト(NRDL)交渉結果
第44号:中国における中枢神経系医薬品の研究開発:果てしない闇を越えて
第43号:中国の伝統的なジェネリック医薬品企業はどのようにして創新薬創出企業に生まれ変わったのか?
第42号:王娜アステラス中国開発本部長:アステラスは中国を含む世界同時開発を一歩一歩実現させる
第40号:中国は「患者を中心とする」新薬臨床開発の時代を開く
第39号:医薬研発達人第39号:2023年新春挨拶
第38号:25th CSCO 2022-CDE Session報告
第37号:海南博鰲(ボアオ)楽城国際医療観光先行区における「中国市場先行参入」の道
第35号:CDEが抗体薬物複合体(ADC)ガイドライン(案)を発出
第34号:DIA AsiaとDIA日本年会を通じて得られた中国に関する知見
第33号:住友ファーマ中国 纐纈 義隆氏:中国での新たな挑戦
第31号:中国における細胞及び遺伝子治療製品の審査概要と業界動向
第29号:中国における医薬品の臨床試験中ならびに市販後の変更
第28号:張 剣教授:中国の若手研究者により多くの成長の機会を!
第27号:中国バイオのイノベーションを投資市場の視点から切る
第26号:医薬研発達人創刊1周年に寄せて (2022年7月4日発行、第26号)
第23号:CDEのバイスペシフィック抗体医薬品ガイドラインがもたらすもの
第22号:中国製薬メタモルフォーゼ: BiotechからBiopharmaへ
第21号:中国における小児用医薬品開発の課題―現状を打破するにはー
第20号:2020年に登録された中国臨床試験の全体像から分かること
第19号:中国の製薬会社は、米FDAにおける信達生物製薬(Innovent)の経験から何を学ぶべきか?
第15号:2018~2021:過去4年間の創新薬の承認状況を振り返って
第13号:呉一龍教授:中国は世界の臨床研究において、重要な役割を果たしている
第12号:第6回中国医薬創新投資大会(CBIIC):導入(Buy)、フォロー(Follow)、改良(Improve)から真のイノベーションへ
第11号:CDE化薬臨床1部 楊志敏部長ご講演聴講記 (第18回DIA日本年会2021)
第10号:CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出
第9号:2021年上半期の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析
第8号: 中国GVP (Good Vigilance Practice) の公布・施行
第7号: 協和キリン丁 锎氏:日中両国臨床データ相互利用を強化する可能性
第6号:臨床的価値に焦点を当てる優先審査と特別審査 |上市促進プロセス(下)
第5号:中国の画期的治療薬、条件付き承認を多角的に分析|上市促進プロセス(上)
第4号:武田薬品の王 璘:中国の薬品研究開発:世界に追いつき、世界の研究開発をリードする
第3号:1回日中ICH合同シンポジウム:日中協働と相互理解の促進
第2号:NMPAはどのようにICH管理委員会メンバーに再選されたのか?
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第61号