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2023年医薬品審査報告書(2024年2月4日CDE発行)の分析

·02/25/2024

医薬研発達人編集長 高野哲臣(t2T Healthcare株式会社代表取締役社長)

(2024226日発行、第68)

 

今回の医薬研発達人第68号では、202424日にCDEから発行された「2023年度审评报」「2023年医薬品審査報告書」を取り上げる。

 

CDEが毎年発行する年次の医薬品審査報告書(前年1-12月分)は、2012年分から2017年分までの6年間は翌年の2月から3月にもれなく発行されていた。

 

しかし、薬事規制改革の進展等による業務量増大などにより、2018年分から2021年分までの4年間は翌年の6月から7月と発行時期が遅くなり、さらにコロナ禍の影響を最も受けた年と言える2022年分の医薬品審査報告書は、医薬研発達人第57(2023925日発行)CDE Annual Reports 2022を紐解く」に記載したとおり、202396日の発行であった。

 

それからわずか5カ月後の202424日、CDEから「2023年度审评报」「2023年医薬品審査報告書」が発行された。

 

今回、2023年分の発行時期から推測すると、CDEにおいては、薬事規制改革開始以降の急速な業務量増大やコロナ禍の混乱からだいぶ落ち着いてきていることが伺える。

 

なお、「中国新注册试验进展年度(2022)」「中国新薬承認申請用臨床試験年度報告書(2022)」は、「2022年医薬品審査報告書」発行翌日の202397日発行であったが、「中国新注册试验进展年度(2023)」「中国新薬承認申請用臨床試験年度報告書(2023)」の発行は、20243月以降と見込まれるため、今号の医薬研発達人では、「2023年医薬品審査報告書」のみを取り上げることとした。

 

ちなみに、前述のとおり、医薬研発達人第57(2023925日発行)では2022年分の2つのCDE Annual Reportsについて言及したが、医薬研発達人第24(202265日発行)CDE相談の現況」では2021年分のこれらCDE Annual Reportsについて言及しているので、今回の第68号と合わせると、2021-2023年分の3年間の比較が可能となっている

 

1.  2023年の中国のIND/NDA申請受理件数は、いずれも、コロナ禍前より大幅増加

 

中国のIND申請受理件数の経年変化を見ると、2019: 1,021試験(前年比+29.9%) → 2020: 1,548試験(前年比+51.6%) → 2021: 2,412試験(前年比+55.8%)と順調に増加していたが、 2022年には 2,244試験(前年比-6.97%)となり、コロナ禍の影響が見られた。しかし、2023年には2,997試験と前年から33.6%増加するV字回復が見られ、過去最高数を更新した。(2023年医薬品審査報告書の図3参照)

 

また、中国のNDA申請受理件数の経年変化を見ると、2019: 257(前年比+28.5%) → 2020: 323(前年比+25.7%) → 2021: 389(前年比+20.4%)と、年々伸びていたものの、やはり2022年は334件となり前年より14.1%減少した。しかし、2023年には470件と前年から40.7%増加するV字回復が見られ、IND申請受理件数と同様に過去最高数を更新した。(2023年医薬品審査報告書の図3参照)


2.  創新薬が中国のIND/NDA申請受理件数の大幅増加をけん引

 

中国の2023: 2,997件のIND申請受理件数のうち、2,298(76.7%)は創新薬(世界のどこの国・地域においてもまだ発売されていない新有効成分)で占められていた。その内訳は、創新中薬が47薬剤54試験、創新化学薬品が600薬剤1,368試験、創新予防生物製品が34ワクチン43試験、創新治療生物製品が576製品833試験で、計1,257薬剤2,298試験であった。(直下の表参照)

 

2023年のIND申請受理件数の内訳

(2023年医薬品審査報告書から筆者にて抽出ならびに加筆)

 

なお、創新化学薬品と創新治療生物製品のIND申請受理件数の経年変化を見ると、2022年の創新化学薬品のIND申請受理件数(1,046試験)で、コロナ禍による一時的な落ち込みが見られるものの、それを除くと、いずれも一貫した右肩上がりの増加が認められた。(2023年医薬品審査報告書の図8と図13参照)



中国の2023: 470件のNDA申請受理件数のうち、133(28.3%)は創新薬(世界のどこの国・地域においてもまだ発売されていない新有効成分)で占められていた。その内訳は、創新中薬が7薬剤8件、創新化学薬品が55薬剤79件、創新予防生物製品が1ワクチン1件、創新治療生物製品が29製品45件で、計92薬剤133件であった。(直下の表参照)

2023年のNDA申請受理件数の内訳

(2023年医薬品審査報告書から筆者にて抽出ならびに加筆)

 

なお、創新化学薬品と創新治療生物製品のNDA申請受理件数の経年変化を見ると、2022年の創新化学薬品のNDA申請受理件数(29)で、コロナ禍による一時的な落ち込みが見られるものの、それを除くと、いずれも一貫した右肩上がりの増加が認められた。(2023年医薬品審査報告書の図9と図14参照)


(2023年医薬品審査報告書から筆者にて抽出ならびに加筆)

 

なお、創新化学薬品と創新治療生物製品のNDA申請受理件数の経年変化を見ると、2022年の創新化学薬品のNDA申請受理件数(29)で、コロナ禍による一時的な落ち込みが見られるものの、それを除くと、いずれも一貫した右肩上がりの増加が認められた。(2023年医薬品審査報告書の図9と図14参照)



3.  CDE相談件数はさらに増加中 (2023年の取扱件数は5,549件で前年比27.6%)

 

2021年医薬品審査報告書」によれば、中国のCDE相談件数(弁理。申込が受理された後、交流条件に合致すると判断された取扱件数)は、2018: 1,326 → 2019: 1,871(前年比+41.1%) → 2020: 2,451(前年比+31.0%) → 2021: 3,946(前年比+61.0%) となっていて、IND申請数の急激な増加に呼応して、CDE相談件数も飛躍的に伸びていた。(直下の表ならびに2023年医薬品審査報告書の図46参照)

 

そして、「2022年医薬品審査報告書」、「2023年医薬品審査報告書」によれば、その後のCDE相談件数は、申込受理件数が2022: 4,924(前年比+10.7%) → 2023: 5,912(前年比+20.1%)、取扱件数が2022: 4,349(前年比+10.2%) → 2023: 5,549(前年比+27.6%) と、2022年のコロナ禍の停滞から2023年は挽回し、再び右肩上がりの大きな増加に転ずるなど、過去最高数を継続更新中である。(直下の表ならびに2023年医薬品審査報告書の図46参照)

2017-2023年のCDE相談件数(申込受理件数と取扱件数)の推移

(2021年、2022年、2023年医薬品審査報告書から筆者にて抽出ならびに加筆)


2023年の中国のCDE相談件数(取扱件数): 5,549(前年比+27.6%)の内訳は、Pre-IND1,496(構成比26.96%)Pre-NDA560(10.09%)I類会議が1,086(19.57%)III類会議が1,151(20.74%)等となっていた。2022年と比べると、Pre-IND(1,2991,496件、前年比+15.2%)Pre-NDA(456560件、前年比+22.8%)I類会議(7651,086件、前年比+42.0%)III類会議(9021,151件、前年比+27.6%)と、これら4つのカテゴリーでは、いずれの数も増えていたが、特にI類会議の増加が顕著で、構成比においても約2ポイント上昇していた。(2022年医薬品審査報告書の表242023年医薬品審査報告書の表12参照)

20201211日にCDEから通知され、同日施行された「医薬品の臨床開発と技術審査に関するコミュニケーション管理弁法(2020年第48)(https://www.cde.org.cn/main/news/viewInfoCommon/b823ed10d547b1427a6906c6739fdf89) の第7条によれば、中国では、First in Chinese試験(但し米欧日でIND承認済の国際共同試験等は除く)の際の最初のIND申請時の「Pre-IND相談」、ならびに生物製剤のNDA申請時(中国にはBLA申請制度は無い)の「Pre-NDA相談」は、原則として必須となっている。また、外国臨床データのみで、中国人臨床データ免除にて中国NDA申請に臨もうとする際は、「Pre-NDA相談」の枠組みとなる。もちろん、言うまでもなく、創新薬にとって、「Pre-IND相談」と「Pre-NDA相談」は、極めて重要である。

 

しかしながら、CDE相談件数(弁理。すなわち取扱件数)の経時推移で見ると、「Pre-IND相談」が2019: 34.9% (653/1,871) → 2020: 37.5% (919/2,451) → 2021: 32.8% (1,296/3,946) → 2022: 29.9% (1,299/4,349) → 2023: 27.0% (1,496/5,549)、「Pre-NDA相談」が2019: 10.3% (193/1,871) → 2020: 13.2% (324/2,451) → 2021: 11.0% (436/3,946) → 2022: 10.5% (456/4,349) → 2023: 10.1% (560/5,549) と、いずれも件数は一貫して増加しているものの、構成比においては2020年→2021年→2022年→2023年と連続して微減していた。

 

4.  2023年の対面助言(web会議・電話会議を含む)の開催数は?

 

CDE相談のうち、対面助言(web会議・電話会議を含む)の割合は、2019年から2022年まで、継続して減少していた。

 

2021年医薬品審査報告書」と「2022年医薬品審査報告書」によれば、CDE相談に占める対面助言(web会議・電話会議を含む)の割合は、2018: 24.3% (322/1,326) → 2019: 22.5% (421/1,871) → 2020: 10.9% (268/2,451) → 2021: 10.8% (425/3,946) → 2022: 9.7% (424/4,349)と、対面助言の回数は(コロナ禍初年でCDEと相談者側の双方で対応が追い付かなかった2020年を除き)毎年増加してきているものの、回数がキャパシティに近づくにつれ、対面助言の割合は低下し、一層狭き門となっていた。すなわち、相談者側の需要はまだまだ満たされていない状況と考えられた。(2021年医薬品審査報告書の表192022年医薬品審査報告書の表25参照)

 

そして、残念ながら、「2023年医薬品審査報告書」では、対面助言(web会議・電話会議を含む)の開催数に関する記載が割愛されているため、2023年の分析を行うことはできない。「CDE相談の取扱件数が2022: 4,349(前年比+10.2%) → 2023: 5,549(前年比+27.6%) と大きく増加したことによって、2023年の対面助言の割合は2022年よりさらに低下した」という事態が起こっていないことを祈りたい。

 

5.  附件のコンテンツが充実

 

2023年医薬品審査報告書」では、過去最高数を更新して、次の10件の附件/表が載った。

 

附件1   2023年国家药监局批准的

附表2   2023年通过优审评审批程序批准的病用

附表3   2023年通过优审评审批程序批准的儿童用

附件4   2023年国家药监批准的境外生原研

附件5   2023年国家药监批准的入加快上市程序情况

附件6   2023入突破性治疗药物程序的

附件7   2023年国家药监附条件批准的

附件8   2023年药审中心发布的指导原则

附件9   ICH正在活跃的议题

附件10 2023年药审中心开展的培训

 

202396日発行の「2022年医薬品審査報告書」まで入っていた「海外上市済かつ中国で臨床上緊急ニーズのある新薬リストに掲載された薬剤(2018/11/1発表40薬剤, 2019/5/29発表26薬剤, 2020/11/19発表7薬剤の計373薬剤)」の中国承認状況等の動向は、もうほとんど更新が無いためか、今回の「2023年医薬品審査報告書」からは消えてしまった。

 

一方、「優先審査プロセスを通じて承認された希少疾患用医薬品(附表2)」、「優先審査プロセスを通じて承認された小児用医薬品(附表3)」、「条件付き承認された医薬品(附件7)」など、今回の「2023年医薬品審査報告書」から、いくつかの役立つ附件も加わっている。

 

6.  まとめ

 

上記の分析のサマリを以下に示す。

2023年の中国のIND/NDA申請受理件数は、いずれも、コロナ禍前より大幅に増加した。

そのIND/NDA申請受理件数の大幅増加をけん引したのは、創新薬であった。

2023年のCDE相談件数は、右肩上がりでさらに増加し、過去最高値を更新した。 (2023年の取扱件数は5,549件で前年比27.6%)

CDE相談のうち、対面助言(web会議・電話会議を含む)機会に関する記載は無くなった。

附件の数は10/表となり、過去最高数を更新し、コンテンツも充実した。

 

「中国新薬承認申請用臨床試験年度報告書(2023)」は、2024226日現在、まだ発行されていないため、今号の医薬研発達人では、202424日発行の「2023年医薬品審査報告書」のみを取り上げた。


前号までの記事は下記からご覧いただけます。
第67号:中国のsiRNA企業ARGOは患者に希望をもたらす
第66号:2023年、大手多国籍製薬企業が中国企業から導入した新薬
第65号:中国発抗PD-1モノクローナル抗体は如何にして初のFDA承認を得られたのか?
第64号:医薬研発達人第64号: 2024年新春挨拶
第63号:なぜ香港は新たな医薬品医療機器規制当局を設立するとともに、ICHに参加するのか?
第62号:第7回『研発客』臨床年次総会兼ChinaTrials15速報:日本の新規制が中国製薬企業の日本進出に与える影響
第61号:DIA日本年会2023参加報告 ーChina Townhallを中心に
第60号:秦叔逵教授:「がんの王様-肝臓がん」の治療法の進展
第59号: 条件付き承認制度を厳格化する新たな規制案は中国の創薬企業に影響を与えるか?第58号: DIAアジア会議2023における中国の規制/業界関連のトピックス
第57号: CDE Annual Reports 2022を紐解く
第56号: 中国における自己免疫疾患治療薬の開発競争: 勝者は誰か?
第55号:CDEの『新薬のベネフィット•リスク評価』ならびに『患者を中心とする臨床試験のデザイン/実施とベネフィット•リスク評価』に関する技術ガイドライン
第54号: ASEANは中国のBiotech/Biopharmaにとって良い市場か?

第53号:中国のADC–10年の蓄積と3年の飛躍–
第52号:第15回DIA中国年会報告(第二弾)  医薬研発達人創刊2周年記念号
第51号:第15回DIA中国年会報告(第一弾)    中国バイオテク企業が日本へ進出するということ
第50号:呉洪福教授:中国は日本の幹細胞産業から何を学べるか
第49号:PhIRDA宋瑞霖執行会長ご講演聴講記
第48号:中国において抗悪性腫瘍薬の単群試験が適用となる6つのケース
第47号:2022 CBIICにて中国医薬品規制改革の成功の軌跡と今後の課題を見る
第46号:2023年度中国国家医療保険償還医薬品リスト(NRDL)交渉結果
第45号:第一三共の中国での野望
第44号:中国における中枢神経系医薬品の研究開発:果てしない闇を越えて
第43号:中国の伝統的なジェネリック医薬品企業はどのようにして創新薬創出企業に生まれ変わったのか?
第42号:王娜アステラス中国開発本部長:アステラスは中国を含む世界同時開発を一歩一歩実現させる
第41号:2022年の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析
第40号:中国は「患者を中心とする」新薬臨床開発の時代を開く
第39号:医薬研発達人第39号:2023年新春挨拶
第38号:25th CSCO 2022-CDE Session報告
第37号:海南博鰲(ボアオ)楽城国際医療観光先行区における「中国市場先行参入」の道
第36号:中国における眼科領域新薬開発の現況
第35号:CDEが抗体薬物複合体(ADC)ガイドライン(案)を発出
第34号:DIA AsiaとDIA日本年会を通じて得られた中国に関する知見
第33号:住友ファーマ中国 纐纈 義隆氏:中国での新たな挑戦
第32号:中国におけるリアルワールドデータの活用
第31号:中国における細胞及び遺伝子治療製品の審査概要と業界動向
第30号:中国における抗悪性腫瘍薬併用療法の開発トレンド
第29号:中国における医薬品の臨床試験中ならびに市販後の変更
第28号:張 剣教授:中国の若手研究者により多くの成長の機会を!
第27号:中国バイオのイノベーションを投資市場の視点から切る
第26号:医薬研発達人創刊1周年に寄せて (2022年7月4日発行、第26号)
第25号:2022年日中医薬健康交流会報告
第24号:CDE相談の現況
第23号:CDEのバイスペシフィック抗体医薬品ガイドラインがもたらすもの
第22号:中国製薬メタモルフォーゼ: BiotechからBiopharmaへ
第21号:中国における小児用医薬品開発の課題―現状を打破するにはー
第20号:2020年に登録された中国臨床試験の全体像から分かること
第19号:中国の製薬会社は、米FDAにおける信達生物製薬(Innovent)の経験から何を学ぶべきか?
第18号:中国の医療保険制度と薬価交渉の概観(下編)
第17号:中国の医療保険制度と薬価交渉の概観(上編)
第16号:中国の新しい希少疾病用医薬品臨床開発ガイドライン

第15号:2018~2021:過去4年間の創新薬の承認状況を振り返って
第14号:医薬研発達人第14号:新春挨拶
第13号:呉一龍教授:中国は世界の臨床研究において、重要な役割を果たしている
第12号:第6回中国医薬創新投資大会(CBIIC):導入(Buy)、フォロー(Follow)、改良(Improve)から真のイノベーションへ
第11号:CDE化薬臨床1部 楊志敏部長ご講演聴講記 (第18回DIA日本年会2021)
第10号:CDEが抗悪性腫瘍薬の臨床開発ガイドライン(案)を発出
第9号:2021年上半期の中国の製薬企業の導出・導入状況の分析
第8号:   中国GVP (Good Vigilance Practice) の公布・施行
第7号:  協和キリン丁 锎氏:日中両国臨床データ相互利用を強化する可能性
第6号:臨床的価値に焦点を当てる優先審査と特別審査 |上市促進プロセス(下)
第5号:中国の画期的治療薬、条件付き承認を多角的に分析|上市促進プロセス(上)
第4号:武田薬品の王  璘:中国の薬品研究開発:世界に追いつき、世界の研究開発をリードする
第3号:1回日中ICH合同シンポジウム:日中協働と相互理解の促進
第2号:NMPAはどのようにICH管理委員会メンバーに再選されたのか?
創刊号:医薬研発達人:日中両国のさらなる医薬発展への架け橋 |発刊にあたってのご挨拶
創刊号:なぜ、医薬研発達人を立ち上げたのか?|発刊にあたってのご挨拶
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